(台湾)[2002/3/23]

月刊「自然保護」(No.466 2002年5月号)より転載

 
■来年の世界国立公園会議に向けて
 3月18日から24日まで台湾の陽明山国立公園で開催された「第4回東アジア保護地域会議」(写真)に大澤理事と吉田が出席した。

 この会議はIUCN・WCPA(国際自然保護連合世界保護地域委員会)が3年おきに開催している(第2回は1996年・釧路市)。 モンゴル・北朝鮮・韓国・中国・香港・台湾・日本および東南アジア・オセアニアなどから約300人が参加した。
 今回の会議は、WCPAが2003年に南アフリカのダーバンで開催する「第5回世界公園会議」に東アジア地域からの意見を届けるという役割を持っている。そのため世界公園会議のテーマと同じ「保護地域の境界を越えた利益」が選ばれた。

■国境を越えるコリドー
 境界を越えた利益という言葉はさまざまな意味を持っている。最初に思いつくのは、島状に分断された保護地域をつなぐ回廊(コリドー)や、国境をまたぐ(トランスバンダリー)保護地域だろう。中米では八カ国の首相の合意によって、メキシコからパナマまで国境をむすぶ保護地域が計画されている。しかし政治体制の違う国々を抱えた東アジアでは、朝鮮半島の軍事境界線におけるクマの移動経路の確保など重要な課題があるが実現までの道のりは遠い。
 今回も海洋保護地域部会から、台湾の南西に位置する東沙群島の保護地域化を会議の宣言に盛り込む提言がなされたが、南海諸島全体の領有権を主張する中国から反対意見が出るなど難しい局面もあった。

■関係者ごとの境界をどう越えるか
 もう1つ克服すべき境界は、保護地域をめぐる関係省庁や、地域住民、民間企業などの間にある境界である。保護地域ができる前から集落が存在している東アジア各国では、日本の国立公園のゾーニングや関係者との調整システムが参考になる。今回は、台湾の国立公園内にすむタイヤル族などの先住民族の利益の問題がとくに強調されていた。
 台湾での開催とあって、東南アジアからの参加者が多く、海洋保護地域部会で2日にわたるサンゴ礁保全に関する発表が行われたのも特徴的だった。第5回東アジア保護地域会議は、2005年に香港で開催される。
(吉田正人・NACS-J常務理事)

▲台湾で東アジア保護地域会議が開催された。


台湾の国立公園
大澤雅彦(東京大学大学院教授、IUCN日本委員会委員長、NACS-J理事)

 台湾の国家公園(国立公園)計画は日本の統治時代の1937年に始まった。しかし、すぐに戦争で中断され、1972年になって初めて法的整備がなされ、さらに10年後の1982年に最初の墾丁国家公園が指定され、現在までに6ヵ所指定された。全体で台湾の8.4%の面積を占めている。
 台湾の国家公園は環境保護のための「合理的開発」と位置づけられており、日本でいえば国土交通省に相当する内政部営建署の管理下にある。考え方としては、貴重な自然を観光地化することによってそれ以外の開発行為から保護するという政策である。したがって各公園の管理処(所)には企画・運営、工務・建設、保育(保護)研究、観光遊覧、解説・教育の5課があり管理・運営を行っているが、それとは独立して内政部の国家警察の中に国家公園警備隊と呼ばれる部署があって、通常の治安・秩序維持、公園法違反の処理を行っているほか任務として国の重要資源の保護を担うという強権を持っている。
 今回、世界保護地域会議東アジア部会の際に訪れたのはそのうち陽明山と太魯閣の2カ所の国家公園である。
 太魯閣は日本統治時代の1937年にダム計画が起こり、それから守るために次高山、タロコ国立公園として台湾で最初の公園計画地域となった場所である。石灰岩とその変性した大理石の峡谷で、その後もセメント用の大理石の採取と金の採掘が主な脅威だった。幸い金は埋蔵量が少なく開発の動因とはならなかった。日本時代につくったダムは堆砂がひどく、発電量も小さいので取り壊したいと考えている人たちもいるが、公園のほかの課の合意が得られず手が出せないという。峡谷の側壁を穿ってトンネルが走り、随所に観察用の横穴が窓のように開いている。もともとは水資源探索目的の洞窟だったものが多い。道路や施設をそれぞれの課が勝手に管理しているので、災害復旧などの責任のなすりあいのようなことも現実にはあるようだ。もともとこの地方にすんでいたタイヤル族は公園内にすんでいてもよいが、家・焼畑農地など一切の変更はできず実質的にほとんどは公園外に出てしまい、現在では2、3家族が残っているだけだという。

▲太魯閣の峡谷。頻繁に崩落があり、一時的なダムともなる。大規模な崩落の後の復旧工事。担当や広報など内部でも保護派と建設派でやりあうことがあるという。

 台湾の国家公園当局はIUCN保護地域委員会の優等生的存在で、また、現在の張隆盛理事長の強力な指導力もあって、保護地域の管理・運営、さらに国家公園以外の自然保留(保護)区、野生動物保護区、野生動物重要棲息環境、国有林自然保護区などを連結する南北全長300kmの「中央山脈保育軸」とよぶ緑の生態回廊を推進するなどめざましい動きを見せている。今回の陽明山宣言でも、この機に加盟各国が利用できるWCPA東アジア環境教育研究訓練センターの設置を明言している。
(おおさわまさひこ)


▲太魯閣の峡谷。頻繁に崩落があり、一時的なダムともなる。大規模な崩落の後の復旧工事。担当や広報など内部でも保護派と建設派でやりあうことがあるという。