本来の自然状態では存在しない生物種の導入(侵略的外来種)によっておこるさまざまな影響とはどのようなものがあるか、侵略的外来種の実例を含めてご紹介します。ある生物が自然状態では存在しない生態系に導入されたときどのようなことが起こるでしょうか?その生態系は柔軟性をもってその変化に対応できるでしょうか、それとも生物の侵入ははかりしれない影響を与え、恒久的な損害を与えるのでしょうか?何か特別のものが永久に失われるのでしょうか?それで問題はないのでしょうか?
侵略的外来種の事例
ここでは2つの事例を紹介します。
① ナイルパーチ(Nile Perch:Lates niloticus)
ナイルパーチ ナイルパーチは、1954年に、乱獲を原因とする固有種の漁獲量の激減を中和するために、アフリカのビクトリア湖に導入されました。 この魚は、他の種を捕食したり、餌の競合を通して、200以上の固有の種を絶滅させました。ナイルパーチの肉は、他の魚よりも 油が多いので、とらえたこの魚を乾かすのに、多くの木が燃料として切り倒されています。このために起こる浸食と排水は、 流れ出す栄養分の量を増加させ、湖を、アオコとホテイアオイの侵入に無防備な状態にしてしまいます。これらの侵入は、 湖での酸素不足をもたらし、多くの魚が死亡する原因となります。ナイルパーチの商業的開発は、地域の男女を伝統的な漁業 や水産物の加工の仕事から立ち退かせてしまいます。この導入の影響は遠くまで及び、環境のみならず湖に依存している地域社会 も荒廃させてしまいました。
② ジャワマングース(Smal Indian Mongoose:Herpestes Javanicus(auropunctatus))
貪欲でその場に応じ何でも食べるジャワマングースは、イランから、インド、ミャンマー、マレー半島地域の原産です。 1800年代の後半に、ネズミをコントロールするため、モーリシャス、フィジー、西インド、ハワイに導入されましたが、 残念なことに、この生物学的コントロールという初期の試みは悲惨な結果となってしまいました。動きの速い、哺乳動物 の捕食者の恐れもなく進化した島固有の動物群の数は、マングースとは噛み合わないものでした。マングースは、数種の 土地固有の鳥、爬虫類、両生類の地域的な絶滅の原因となり、希少なアマミノクロウサギ(Pentalagus furnessi)を含む 他の種の存在を脅かしています。ジャワマングースはまた、狂犬病を媒介します。
かつては地球上の山岳や海洋は、すべての生物種にとって越えることのできない障害物として存在していました。生態系は隔離されて進化を遂げていったのです。人類が登場し全世界に移動を開始すると、私たちの祖先の物理的社会的必要性を満たすため、最初の生物の導入が行われました。しかしその大きさや頻度は、現在の国際貿易や旅客の移動にともなう生物の導入に比べれば小さなものでした。
国際的な外来種の導入にともなう悲劇的な結果に関しては、200種以上の魚類を絶滅させたナイルパーチのように話には事欠きません。私たちは過去の失敗から学ぶべきです。しかし驚くべきことに生物種の導入にともなう危険は今も続いているのです。また国際的な園芸品種やペットの貿易の参加者行動も問題視されています。
人間のうっかりした行動が、生物種の導入の原因になることもあります。いわゆる「事故」が、生物学的侵入の大きな原因の一つとなっています。今日、侵略的外来種は、生息地の破壊に次いで、生物の絶滅の大きな要因になっていることがわかっています。
地球上の生物の多様性を構成する生物の属や種、生態系は、それが失われると自然そのものが失われあるいは劣化してしまうのでとても重要です。人類以外の種もまた地球上の中で存在しある地位を占める権利があります。私たちは、どの生物種が生態系にとって不可欠であり、どの生物種が余分のものであるか、そしてどの生物種が世界の変化に適応できるのかを知りません。私たちが生物種をある生態系に導入したとき、その影響がただちに現れるわけではありません。しかし、侵略的外来種は、生息環境を完全に変え、もともとの生物群集を非持続的なものにしてしまう可能性があります。
地球上の生物の多様性を守ることは、私たちの生命を維持するために最適な方法です。生物圏はセルフコントロールシステムを持った系であり、回復力をもったものであるということが知られています。しかし島嶼生態系のような隔離された生態系は、食物連鎖を支える植物、草食動物、肉食動物、分解者の数も少なく、侵略的外来種に弱い生態系であるということがいえます。世界中の島々で、生物種はかつてない速度で絶滅していっていますが、侵略的外来種がその絶滅の原因になっています。
生物種のよりよい管理や生物学的侵入を防ぐための先駆的行動が世界の各地で実行されています。侵略的外来種はいまや国際的な自然保護活動の関心を集め、国際侵略的外来種プログラム(GISP)のような国際協力活動のテーマとなっています。侵略的外来種に対する関心が高まるにつれて、人々や地域社会は子孫にひきつぐことができる選択肢についてさまざまな情報を得られるようになっています。
2000年から世界レベルでの侵略的外来種ワースト100をまとめた本が出され、現在は、データベースとしてオンラインでも検索できます2013年に更新されています。侵略的外来種ワースト100リストとデータベースの開発は、エンタープライズ財団TOTALの全般的な協力とIUCNにより実施されています。
侵略的外来種ワースト100のページ(英語)
リンク:http://www.iucngisd.org/gisd/100_worst.php
「世界の侵略的外来種ワースト100」は、侵略的外来種のおどろくべき複雑さと、悲劇的な結末を伝えるために作られました。侵略的外来種は、以下の2つの基準に従って選ばれています。
・生物の多様性および人間活動に対する深刻な影響
・生物学的侵入をめぐる重要な事柄の表現
これ以外にもたくさんの侵略的外来種がありますが、このリストに載っていないからといって、脅威が小さいというわけではありません。侵略的外来種に対する一般的な認識が高まることによって、将来の有害な侵略的外来種の拡大を防止できればと願っています。
日本では、2002年に日本生態学会が50周年記念出版物「外来種ハンドブック」(㈱地人書館)を発行しました。その付録として「日本の侵略的外来種ワースト100」がまとめられ、日本の侵略的外来種の中でも特に生態系や人間活動への影響が大きい生物のリストです。
最新の日本の侵略的外来種については、国立環境研究所が侵入生物データベースを公開しています。
こちらをご覧ください。
リンク:http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/index.html