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資源動員
資源動員は、パラ1~パラ18までは、先進国、途上国、あるいはあらゆるステークホルダーに対し資源動員のための取組み(国内資源動員戦略の策定や、資源へのアクセスの向上、国内・グローバルの資源の増加)を推進することを求めるなど一般的なことが書かれていますが、パラ19以降が、とりわけ交渉の焦点となったパートです。付属書が二つ添付されており、資源動員戦略と、GEFの評価に関する文書となっています。
会期中度々場をにぎわせたコンゴ民主共和国の比喩で言うと「料理をつくる(資源動員戦略と実施)」のと「盛り付ける皿を整える(資金供与のための手段の確立(条約21条))」のとを行うパートです。
この比喩をもう少し補足すると、条約で度々話題になる地球環境ファシリティ―という基金は、21条が定める正式な資金供与のための手段ではなく、「39条 資金供与に関する暫定的措置」という条文で、21条の資金供与メカニズムとして暫定的に機能すると確認された資金メカニズムでした。
先の比喩で言えば、一つの皿に、生物多様性の料理も、気候変動の料理も、その他の料理も盛り付けられるお皿なので、生物多様性条約のためだけのお皿ではない。盛り付け方と料理の取り方にいろいろ制約が出てきている、といったところでしょうか。
決定では、2030年までに、21条に基づく正式な資金メカニズムの特定と、資源動員戦略の採択および実施と改善による資金ギャップの解消の二つを行うことを決め、資金メカニズムの基準、COP19までのロードマップをまとめました。
結論は、若干玉虫色で、新しい基金を作る可能性も、GEFの運用改善の可能性もいろいろな可能性を含んだ内容ですが、決裂することなく、2年&追加会合の末にですが、合意に至ったということは喜ばしいことです。
資金メカニズムについては国際的なガバナンスとしては関心が高いと思いますが、もう少し市民目線に近づけてみると、資源動員戦略のほうが興味深いかと思います。
非常に多岐に渡る内容なのですが、先進国による資金、途上国による資金、他の政府(=米国)による資金、多国間開発銀行およびその他の関連する国際金融機関による資金の活用、生物多様性枠組み基金、民間資金活用、カリ基金など、より民間からの供出も期待し、拡大に向けて働きかける内容になっています。
戦略ができたからお金が増えるというほど単純ではないのですが、戦略に基づいた評価や改善策を常に話し合うという形で、可視化されるという流れは生まれることになります。革新的資金メカニズム含めて、生物多様性の資金の話は今後も注目議題と言えます。
PMRR決定のポイント
計画(Planning)・モニタリング(Monitoring)・報告(Reporrting)・レビュー(Review)の決定がなされました。この議題は、生物多様性世界枠組み(GBF)が各国でどう実現のための計画が作られ、実行され、それらが報告され、世界全体のGBFの実施状況評価と必要な追加対策を検討するための詳細な手続きをまとめる事務的ですが、大事な議題です。
<グローバルレビュー>
COP17(2026年@アルメニア)で行う中間評価を“グローバルレビュー”と呼び、締約国主導で検討を行うことが強調されました。このレビューは、「国別報告書(National Report)」と「実施状況を積み上げたグローバルレポート(Global Report)」を基に行います。
<国別報告書とテンプレート>
そのため、国別報告書の報告テンプレート(第7次国別報告書、第8次国別報告書)をまとめました。テンプレートには、生物多様性国家戦略の改定状況といった大枠の実施状況や、23の個別目標毎の実施状況や評価につかった「ヘッドライン指標」などを書き込み、報告する形式になっています。さて、ここでいう“ヘッドライン指標など”についても、同時に採択されました。
<指標>
指標は、全締約国がそれを基に報告することが期待される「ヘッドライン指標」、任意だが使用可能として整理された「要素指標」「補完指標」などが指標専門家グループによってその手法のガイダンス含めて整理されています。また定量的なデータで把握するのが困難な目標に対しては、バイナリー指標という(例えば、ジェンダー対応型の施策を持っていますか Yes/No)アンケート質問みたいなもので把握することとなり、そのアンケート設問も合意されました。
<グローバルレポート>
グローバルレビューに戻って、もう一つのレビューの基礎となるのが、グローバルレポートです。グローバルレポートは、準備のための専門組織を立ち上げるとともに、レポートに含む要素(目次みたいなもの)と、レポート作成に必要な情報源がまとめられました。
この専門組織の作業領域(Term of Reference)もまとめています。
レポートに戻って、作成に必要な情報源も多岐に渡るのですが、国別報告書を筆頭に、指標の活用状況や、各国の国家戦略、IPBES等の政府間組織の報告書、その他の報告書等が列記されています。注目点として、GBFの実施は、あらゆるセクターの参画が重要との視点から、「国以外の主体による貢献」もグローバルレポートの情報源とすることが決まりました。
<国以外の主体による貢献>
そのため、「国以外の主体による貢献」を、生物多様性条約事務局が把握できるよう条約のウェブサイト(クリアリングハウスメカニズム)に改良を加え、国以外の主体による貢献を提供してもらうことが決まり、どんな情報を提出してもらうかというフォーマットも同決定文書の中に入っています。
最後に、2026年アルメニアで開催されるCOP17でグローバルレビューのための一連のプロセス(国別報告書の提出と、そのとりまとめ、グローバルレポートの作成、それらを、SBSTTAやSBI等で何をどのように精査するかというタイムラインがまとめられています。
以上、指標含む、実務的で細かいですが、重要な物事が決まりました。
国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平