COP16の会場で、ボツワナとナミビアから来たIPLCユースの男性に「野生生物取引について議論しないか」と声をかけられました。彼らは、自国の政府が象牙などの野生生物取引を促進しようとしていることに対し、複雑な思いを抱えていました。

南部アフリカでは、象牙取引禁止の影響でアフリカゾウが増加し、農作物を荒らすなど地域住民との軋轢が生じています。生活に深刻な影響を受ける住民がいる一方で、政府は個体数管理のために象牙売却を検討しており、その利益配分や透明性、そして地域社会への還元方法が課題となっています。

彼らに日本の象牙需要はほとんどないと伝えると、彼らは驚いていました。彼らの国では象牙需要は地域になく、すべて国際取引に依存しているからです。国際需要に頼った政策は、地域住民への利益還元が不透明になりやすく、不信感を招きかねません。「政府が野生生物取引で得ているお金がどこに行っているのか、IPLCとしてもよくわからない」という彼らの言葉は、その不安を如実に表しています。

昆明・モントリオール生物多様性枠組の野生生物と人間の軋轢に関するTarget 4についてのサイドイベントでも、野生生物と地域住民の軋轢だけでなく、地域住民と政府、NGO、レンジャー、狩猟者など、様々なステークホルダー間の軋轢に対応していく重要性が議論されていました。野生生物と地域住民の軋轢に焦点が当てられがちですが、実際には、より複雑で根深い人間同士の軋轢が存在することが強調されていました。

具体的には、以下のような軋轢が挙げられます。

  • 被害を被る地域住民 vs. 個体数調整に反対するステークホルダー: 野生動物による被害に苦しむ地域住民は、個体数調整を求める一方で、動物愛護団体や一部のNGOなどは、殺処分を伴う個体数調整に反対し、防除柵の設置や忌避剤の使用など、非致死的対策を主張することがあります。
  • 地域住民 vs. 政府: 野生動物の管理政策を策定する政府は、地域住民の意見を十分に反映しないまま、一方的に政策を決定することがあります。また、政府による補償制度や支援策が、地域住民のニーズに合致せず、不満を引き起こすこともあります。

野生生物保護は、地域住民の生活、経済、そして様々な人間の思惑が複雑に絡み合った問題なのです。

SBSTTA25で私が書いたブログの内容を思い出します。ケニアでは、密猟根絶のために象牙を焼却処分することで、象牙取引を一切認めないという強い意志を示しました。

しかし、南部アフリカ諸国では、ゾウの増加による被害対策として、個体数調整による象牙取引を主張しています(くわしくはこちら)。

 

このように、野生生物保護に対する考え方は国や地域によって大きく異なります。重要なのは、それぞれの立場を理解し、透明性のあるコミュニケーションを図ることです。野生生物保護は、人間同士の協力と理解なしには成し得ません。

今回のCOP16での出会いは、野生生物保護における複雑な人間関係と、透明性・コミュニケーションの重要性を改めて認識させてくれる貴重な機会となりました。

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