11月1日の10時から始まった本会議は、長年、生物多様性条約事務局として活躍し、今期で退職されるディビット・クーパー事務局長補佐やニール・プラット実施局局長への慰労が行われました(個人的にもCOP9からのお付き合いでもうお会いできる機会がなくなってしまうのは残念です)。その後[ ]bracket付きのL文書の合意を進め、かつ、先住民地域共同体やDSIに関するいくつもの歴史的な決定を行いました。しかし、資源動員戦略や報告枠組みに関する議題を扱うころには朝の8時を過ぎており、土曜日に帰国しなければならない政府団も多くいて、会の定足数を満たすことが出来ず、休会(Suspend)となりました。各国の間の合意点を見出すことのできない交渉官たちは、COP15に続けて、2回も、「終わらぬ締約国会議」を経験することになりました。
特別COP(Ex-COP)か、SBSTTAと並べてCOP16-2を開催しないといけません。
8(J)先住民地域共同体に関する事項
<解説>
今回の議論の争点は、ホスト国が力を入れる先住民地域共同体の取組みについて、①作業計画のとりまとめ、②8(J)項作業部会の常設化(Subsidiary Body on 8(J))、③アフリカ系コミュニティ(Afro-Descendant)という用語の追加の3つの論点を議論しました。
作業計画は、内容の精査やタスクの主体(締約国で実施するか、作業部会で担うか、事務局か)、そのタスク優先度の設定(結局、優先度を取り決めたものは削除されましたが)などが論点になりました。
作業計画(付属文書)は、8つの要素に分かれて、ガイダンスの開発や既存ガイダンスの適用、協力の推進、プロットフォームの構築などの行動がまとめられています。要素(Element)は下記の通りです。
- E1:保全と復元
- E2:持続可能な利用
- E3:ABS
- E4:知識と文化
- E5:実施の強化と進展のモニタリング
- E6:十分で効果的な参加
- E7:人権ベースアプローチ
- E8:保全や再生持続可能な利用の推進に関する資金への直接的なアクセス
常設組織にするか否かについては、何回もの交渉を繰り返した結果として、ついに、常設化を決定しました。
先住民地域共同体を含む、各地域代表で作り上げた合意表現を、日本政府が変更しようとして一瞬ざわっとしたのですが、各国の合意を求める声に飲み込まれ、採択が決まった時には、本会議場の後ろに詰めていた先住民地域共同体からは歓喜の声があがり、「歴史的な瞬間だ」との声明がありました。
アフリカ系コミュニティに関しては、アフリカ系コミュニティの保全や条約の実施に重要な役割を演じていることを認識し、締約国には、国内法に沿ってアフリカ系住民の貢献を認識することとしました。この決定にも、会場が盛り上がりました。コロンビア・ブラジル双方が喜びと、合意に向けて協力してくれた締約国に感謝の声を発しました。
アフリカ系コミュニティに関する内容は、実質的な部分は弱まって言えるとも考えられますが、196ヶ国の合意文書として認められたというCOP16決定の存在が重要と思われます。
DSI 電子化された遺伝子塩基配列情報の扱い
電子化された遺伝子塩基配列情報の利用から生じる利益の、保全や持続可能な利用への活用のための多国間メカニズムの在り方(Modality)の検討を行う議題です。ほぼ毎日コンタクトグループが開催されました。あり方(Modality)と補足としてEnclousureA~Fの文書がくっついています。
<全般的な事項>
- モダリティ(あり方)を採択。
- メカニズムによって生まれる資金を「カリファンド」と呼称。
- COP15と今回のモダリティを探求。
- DSIの可能な新しいツールやモデルを探求
- 今後のSBIにて、COP17の決定案を作成。決定案では以下の①②を含める
- ①追加的なModality(あり方)案
- ②アクセス可能なDSIにするようなツールやプラットフォーム
<トリガー・対象・どんな資金を・それは義務かor自発的か>
- 一般に利用可能とされるもので、アクセス時の条件外で、他の国際協定に規定されてない(=既存の仕組みで動いているものは対象外)
全てのDSIユーザーが恩恵(Benefit)を共有することが当然望ましい(should share) - DSI利用者で、直接・間接に利益を得ているセクターは、規模に応じて、カリファンドに供出することが当然望ましい(should contribute)
- 公的データベース、研究や公的研究機関は資金的供与は期待されない
- 指標レート (1$150で計算)として、総資産30億円(2000万USD)、売上75億円(Sale 5000万USD)、利益7.5億円(Profit 500万USD)を超す企業は、売上の1%(7500万円(50万USD))、または利益の0.1%(75万円(5千ドル))*COP18で見直す
- 支払った企業には、貢献を行った年ごとに証明書が発行される。貢献企業は、利益配分を行った企業とみなされる。基準値以上の貢献は期待されない(が、基準値以上の追加の貢献は歓迎)
- 指標的産業(Enclousure A):医薬品、栄養補助食品、化粧品、バイオテクノロジー、DSI関連研究機器、DSI関連情報科学技術産業 このリストも引き続き再検討される
- 非資金的利益についても規定
<資金のホスト、配分、アクセス、データベース>
- 広く公開されているDSIデータベースへの期待項目を整理(パラ10 a-e)
- 資金のホストは明示せず(*合意されなかったが、資源動員戦略で、カリファンドの資金は、新基金に寄与するとされていた)
- 配分先:「条約の目的に寄与」「先住民地域共同体に恩恵」「デジタル配列情報を生成、アクセス、利用、分析、保存する能力の構築」、その他政府間フォーラムで決定した活動
- 50%は、全加盟国、特に途上国の、先住民地域共同体も支援する形の資金として確保。全加盟国、特に途上国の、技術開発を支援するために確保(能力養成に割くパーセンテージは今後協議)。配分の形式はCOP17で決める。配分手法検討専門家会議を実施して検討。併せて、ファンド含む多国間メカニズムの運営を担う運営委員会・事務局の役割案も整理(Enclousure C-E)
- 先住民地域共同体による直接アクセスか国を通じてのものかは国内状況に従う
- 多国間メカニズムの検証は、COP18から、4年(偶数COP)毎に実施。どのような点で検証するかはEnclousure Fを参照
外来種
IPBESのレポートを歓迎し、その知見の活用すること、一方で、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、カリブ海地域では情報収集の改善の必要性を認識する必要があるとしました。
6つの自発的ガイダンスを承認し、また、IUCNが生物多様性条約事務局と更新した外来種に関するツールも指揮して、その活用を呼び掛けるメッセージをまとめました。
締約国に対しては
- a. IPBES評価の情報を活用すること
- b. 外来種管理に関する関係セクター間の相乗効果をはかる政策や仕組みを支援または開発すること
- c. ガイダンス等を活用しながらオンライントレード含む、外来種の移動や導入の減少のための国内規制措置の開発や強化
- d. 新規に導入された外来種に対する早期発見・対策措置の開発または強化
- e. IPBES評価で特定された情報ギャップへの対応
- f. 外来種の管理を支援する情報プラットフォームの開発や更新、長期の運営を支援すること
- g. 多様な利害関係者の関与
- h. 普及啓発
を求めました
事務局長には
- a. 関係組織間の連携協強化しながら、①締約国が必要とする科学技術ニーズの評価、②経験や教訓の共有、③能力養成活動の開発、④国際協力の推進、⑤観光や貿易セクターとの連携強化
- b. 情報や経験共有のためのオンラインフォーラムの開催
- c. 実施状況のSBSTTAへの報告
を求める、文書を採択しました
植物の保全
SBSTTAで検討した植物保全戦略をGBFに合わせて更新(補完的行動計画)することを決定し、締約国には、植物保全に関する行動を検討する場合は考慮すること、国別報告書で相応しい場合報告すること、植物保全戦略に関するフォーカルポイント(連絡窓口)を指名すること、
(この改定案を主導した)植物保全世界パートナーシップに対しては、(a)進捗モニタリングのためのガイダンスを提供すること、(b)この補完的行動計画のための特定の指標を開発すること、(c)報告のためのテンプレートを作成すること、を奨励しました。
主流化
KMGBFの実現に、あらゆる省庁やあらゆる社会を横断する取組みが重要であることを強調し、また、One-size-fits-allアップローチ(全部に適用できる一つの手法)というものはないことを認識するとしました。
締約国には生物多様性の主流化実施を求め、第7次国別報告書で、主流化に関する優良事例や課題、経験に関する情報を奨励しました。
事務局長に対しては、以下のことを指示しました。
- a. 生物多様性の主流化を、地域対話会合の中で扱うこと。特に発展途上国における課題や技術的ギャップ、公正な移行を考慮すること
- b. 関連する条約事務局や団体、機関との連携強化
- c. 関連する条約事務局や団体、機関、他のステークホルダ-に、優良事例やツール、メカニズム、ガイダンス、ソリューションの共有を奨励し、クリアリングハウスメカニズムを通じて、関係する情報を整理した形で提供すること
- d. 能力養成や生物多様性の主流化に関する支援をすること
- e. COP17の前に
- (ア) 有料実践やツール、メカニズム、ガイダンス等の全体像をまとめること
- (イ) セクターごとの優良事例の交換を促進すること
- f. COP17の前のSBIに進捗報告を準備すること
- g. COP18に向けて。生物多様性の主流化を推進するのに必要な追加的行動をとる、そこには、第7次国別報告書の情報も含め、課題等の分析を行うことを含む
健康と生物多様性
付属書にある生物多様性と健康に関する世界行動計画を採択する決定をまとめました。
この実施に向けたWHOへのシナジーを取る行動を奨励する、締約国や多国間の環境や健康に関する協定や資金メカニズムに対して、実施のための能力養成や財政や技術的支援の呼びかけなどをまとめました。
生物多様性条約事務局に対しては、生物多様性と健康に関する進捗を測る指標やツール等の情報整理、行動計画の実施のための能力養成や技術的科学的協力、技術移転の促進、あらゆるレベルでの普及啓発の継続、国際機関等との連携、様々な実践に関してWHO等と協力してオンラインの情報プラットフォームを探求すること、これらの作業をCOP17の前のSBSTTAで報告することを求めました。
付属書Iの生物多様性と健康に関する世界行動計画は、目的、生物多様性と健康の関係性、調整して取り組むことの意義、基本的な行動と、健康と生物多様性関係の行動を、GBFの23目標達成に組み込むための行動がまとめられています。GBFの全目標に言及されているため、大作です。
海洋(今後の課題特定、EBSAプロセス)
海洋に関しては、海洋生物多様性協定(BBNJ)の採択を歓迎しました。また、プラスチック汚染に関する国際交渉に参加すること、GBFと海洋関係で不足(ギャップ)となっている取組みとして付属書にまとめた課題をまとめました。
事務局長に対しては、UNCLOSやBBNJ、国連食料農業機関、国際海事機構などと協働し、能力養成やパートナーシップ促進、横断的協力の強化、協力や相乗効果のための行動を求めました。
ギャップとされた領域は、19項目に及びます。
重要海域(EBSA)の新規特定や改定、取り消し、修正等の細かな手続きについては、8年近い交渉の結果、無事に採択に至りました。
コミュニケーション・教育・普及啓発
この議題では、GBFの実施において、コミュニケーション・教育・普及啓発の重要性を認識し、行動を強化するとともに、教育に関する世界プログラムの開発を進めることが決まりました。
付属書には、GBFの実施の観点で、コミュニケーション・教育・普及啓発のテーマで取り組むべきことを整理しています。
国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平