2024年5月21日、国際海洋法裁判所(ITLOS)は、気候変動と国際法に関する小島嶼国委員会(COSIS)の要請に応えて勧告的意見を発表しました。反対意見なし、全員一致の意見となりました。

2022年12月12日、COSISは、国連海洋法条約に基づいて、気候変動に関してどのような義務が締約国に課されているかを明らかにする勧告的意見をITLOSに要請していました。

国際自然保護連合(IUCN)は、書面及び口頭で意見を述べ、この諮問手続きに参加しました。

 

裁判所は何を明らかにしたか?

裁判所は意見書の中で、あらゆる発生源からの大気中への人為的な温室効果ガス(GHG)排出は、国連海洋法条約上の「海洋環境の汚染」を構成すると判断しました。

その上で、海洋汚染制度の主要な規定である第194条に関連して、3つの主要な義務を明確にしました。

第一に、締約国は、人為的な温室効果ガス排出による海洋汚染を防止、軽減、規制するために必要なあらゆる措置を講じ、この関連で自国の政策の調和を図るよう努力する義務を負うと認定しました。必要な措置には、GHG排出量を削減するものが含まれるとされています。

第二に、自国の管轄下または管理下にある人為的な温室効果ガスの排出によって他国に環境損害を与えないこと、そのような排出による汚染が主権的権利を行使する区域を越えて拡大しないことを確保するために必要なあらゆる措置をとる義務があると認定しています。

第三に、締約国は、気候変動の影響や海洋酸性化から希少または脆弱な生態系、枯渇種や絶滅危惧種、その他の海洋生物の生息地を保護・保全する具体的な義務を負うことを認定しました。

さらに、その他の国連海洋法条約上の締約国の義務についても明らかにしています。

 

国家のデューディリジェンス義務(相当の注意義務)

裁判所は、上記の3つの主要な義務がデューディリジェンスの義務(相当の注意義務)のひとつであることを確認し、デューデリジェンスが何を意味するのかを判断するためのいくつかの要素を特定しています。

デューディリジェンスの義務とは、国家が、該当する活動を規制するために必要な法整備を含む国内制度を整え、そのような制度を効率的に機能させるために十分な監視を行うことを要求するものです。

「このデューディリジェンスの義務は、問題の活動(人為的な温室効果ガスの排出)がほとんど私人または事業体によって実施されている状況において、特に重要である。」と裁判所が指摘していることは特記に値します。

 

ITLOSの勧告的意見の重要性

ITLOSの勧告的意見は、国連海洋法条約に基づく気候変動に関する各国の義務を明らかにした、気候正義の追求に向けた重要な一歩です。

特に、裁判所は、海洋が地球上の熱と二酸化炭素の最大の吸収源として、気候システムに重要な役割を担っていることを認識しています。

今回の勧告的意見は、今後、国際司法裁判所や米州人権裁判所から出される予定の気候変動に関する勧告的意見のうち最初のものとなりました。

この勧告的意見は今後表明される勧告的意見だけでなく、国際裁判所や国内裁判所における気候関連の訴訟や各国の政策に影響を与える可能性があります。