■ネイチャーポジティブ宣言とは何か?
自然との共生、そして生態系の回復を目指す「ネイチャーポジティブ宣言」が、ますます多くの企業や団体の注目を集めています。この取り組みは、自然資本を守り活かし、社会経済活動の変革を行うために、多様な団体が自発的に宣言を行っています。
2024年12月18日時点では、194団体が宣言を出し、賛同団体も含めると590団体に及びます。(参加団体一覧はこちら)
本記事では、ネイチャーポジティブ宣言の具体的な取り組み内容や参加団体の傾向を分析し、さらに宣言に参加するメリットや手順について詳しく解説しています。この記事を通して、自然環境と共生し、持続可能な社会を築くための重要なステップを確認することができます。
この記事で学べること
- 宣言内容の傾向
- ネイチャーポジティブ宣言における、企業・自治体・NGOの具体的な取り組み事例
- 参加することによるメリット(社会的信用の向上、パートナーシップの拡大など)
- すぐに参加できる簡単な手順
この記事はこんな人におすすめ
- 企業:事業活動の中で環境に配慮し、持続可能なビジネスモデルを模索している方
- 自治体:地域コミュニティと協働し、環境保全を通じて地域振興を目指す自治体職員
- NGO/NPO:環境保護活動を推進し、社会全体に環境意識を広げたい団体
- その他団体:環境保護に興味があり、どのように始めればよいか知りたい方
ネイチャーポジティブ宣言は、自然を守るための一歩を踏み出したいすべての組織・団体に向けた取り組みです。具体的な事例とともに、今すぐに実践できる方法をご紹介します。
■参加団体の宣言に関する定量的データ
ここでは、2024年12月18日時点の、194の団体の宣言内容を基に、定量的・定性的な観点から分析し、その全体像を紹介します。まずは具体的な数字を見てみましょう!
1. 宣言を出した団体の割合:宣言数No.1は企業
宣言に参加した団体を、企業、自治体、NGO/NPOなどの団体種別ごとに分類し、それぞれの割合を算出しました。
現在、141の企業、26のその他団体、14の自治体、13のNPO/NGOが宣言を出しています。
その他団体には、環境保全団体や教育機関が含まれます。
宣言発出団体の種別最多は企業で、ネイチャーポジティブへの注目度が垣間見えます。
2. 採用された基本戦略の数:最も取り組まれているのは「生態系の健全性の回復」
日本の生物多様性国家戦略には5つの基本戦略があります。
- 基本戦略1:生態系の健全性の回復
- 基本戦略2:自然を活用した社会課題の解決
- 基本戦略3:生物多様性・自然資本によるリスク・機会を取り入れた経済
- 基本戦略4:生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動
- 基本戦略5:生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進
宣言を出す際には、基本戦略と照らし合わせて宣言内容を決めることが推奨されています。
ここでは、各基本戦略をどれほどの団体が採用しているかについて紹介します。
194の団体のうち約84%(162団体)が「基本戦略1:生態系の健全性の回復」に基づく取り組みを行っています。
次に多く採用されているのは「基本戦略4:生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動」で、約68%(132団体)がこれに取り組んでいます。
続いて、「基本戦略3:生物多様性・自然資本によるリスク・機会を取り入れた経済」は約56%(108団体)が採用し、
「基本戦略2:生態系の健全性の回復」は約44%(86団体)、
「基本戦略5:生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携の推進」は約40%(78団体)が採用しています。
3. 団体別基本戦略採用数の傾向:NPへの取り組みの参考に
参加団体が採用した「基本戦略」(「その他」を含む)の数ごとの団体数を、多い順に紹介します。
まずは、ひとつの戦略から始める団体や、少数ながら1~5すべての基本戦略に取り組んでいる団体も見られます。
この情報は、まだ宣言を発出していない団体が取り組みを始める際や、現在宣言を発出している団体がさらに取り組みを進める際に参考にすることができます。
- 企業
- 4つの基本戦略に取り組む企業:33社
- 1つの基本戦略に取り組む企業:33社
- 3つの基本戦略に取り組む企業:26社
- 2つの基本戦略に取り組む企業:25社
- 5つ以上の基本戦略に取り組む企業:23社
多くの企業が、1つまたは4つの戦略から取り組みを始めていることがわかります。
また、5つ以上の基本戦略に取り組む企業も多くあります。サプライチェーンを通して社会に大きな影響を与えているという特性もあり、「基本戦略3(生物多様性・自然資本によるリスク・機会を取り入れた経済)」をはじめとした多くの戦略に総合的に取り組む傾向が見られます。
一方で、まだ「ネイチャーポジティブ」への取り組み方が明確でない企業の場合、まずは1つの戦略から始めることで「はじめの一歩」を踏み出し、その後徐々に戦略を増やしていくことが理想的です。
- 自治体
最も多いのは、3つの基本戦略に取り組む自治体です。
- NGO/NPO
最も多いのは、1つの基本戦略に取り組む団体です。
- その他団体
2つの基本戦略、3つの基本戦略、4つの基本戦略に、それぞれ6団体が取り組んでいます。
ただし、生物多様性の取り組みを進めるうえで、重要なのは多くの数に取り組むことではありません。なによりも、「生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる」という目的のために団体としてなにができるか、なにをすべきかを考え、実質的な取り組みを行うことが重要です。
4. 宣言の増加傾向
発出された宣言がどのように増えているか紹介します。
2023年以降、段階的にネイチャーポジティブ宣言を発出する団体が増えていることが分かります。
今年度(2024年)の9月は52もの団体が新しく宣言を出し、宣言数が急増しました。その多くの団体が名古屋市を拠点にする団体でした。名古屋市は、ネイチャーポジティブ宣言を行うことを促進する独自の取組(なごやネイチャーポジティブパートナー制度)を進めており、ネイチャーポジティブに力を入れています。
■参加団体の宣言の傾向
ここでは、2024年10月13日時点の、102の団体の宣言内容を基に、定性的な観点から分析した結果を紹介します。
1. 総合的な傾向
まず、全体として宣言内容に見られる主なパターンを見てみましょう。
1.1 生態系保全と再生
「生態系保全」や「自然環境の再生」に焦点を当てた取り組みが多数見られます。特に以下の具体的なアクションが多く報告されています。
- 植樹活動:森林の回復や、地域特有の生物多様性を保護するための植樹プロジェクトが多く行われています。
- 野生動物の保護:自然環境の保全を通じて、動物の生息地を守る取り組みも多く見られます。
1.2 再生可能エネルギーの利用
「再生可能エネルギー」の導入を通じて、環境に優しいエネルギーを利用する方針を、生物多様性保全の取組として位置付ける記述が多く見られました。
1.3 持続可能な農業と林業
「持続可能な農業」や「林業」に関する記述も多く見られました。特に、地域と連携して環境負荷を減らすエコな農法や持続可能な森林管理の推進が挙げられています。
1.4 教育・啓発活動
「環境教育」や「啓発活動」も主要なテーマとして挙げられています。環境保全の重要性を地域社会や次世代に伝えるための教育プログラムや、イベントの開催が報告されています。
1.5 地域コミュニティとの協働
「地域コミュニティ」との協働を通じて、地域資源を活用し、地域住民と共に環境保全活動を行うアプローチが宣言の中で強調されています。特に、エコツーリズムや地域住民と連携した自然保護活動が挙げられます。
2. 団体種別の傾向
次に、団体種別に宣言内容の傾向を見てみましょう。
2.1 企業
企業における宣言内容の特徴は、環境保全に関するアクションが事業活動の一環として進められていることです。主なパターンは以下の2通りです。
- 再生可能エネルギーの導入:事業におけるCO2削減を目指し、再生可能エネルギーを取り入れる方針を生物多様性保全の取組として位置付ける企業が多く見られます。
- 環境負荷の軽減:サプライチェーン全体にわたる環境負荷の低減や、製品・サービスの環境への配慮が重要視されています。
2.2 自治体
自治体における宣言は、地域との連携を重視した取り組みが多く見られます。
- 地域コミュニティとの連携:自治体は、地域住民や地元の団体と協力して自然保護活動を行う姿勢が強調されています。特に、地域資源を活用した観光や農業の支援が目立ちます。
名古屋市のなごやネイチャーポジティブパートナー制度は、ネイチャーポジティブの実現に向けた取組を行うパートナー間のマッチングも支援しています。
- 持続可能な開発の推進:地域全体での持続可能な開発を促進するための具体的な政策や施策が見られます。
2.3 NGO/NPO
NGOやNPOの宣言内容は、主に社会的な啓発活動や教育に焦点が当てられています。次のような傾向が見られます。
- 環境教育の推進:次世代に対する環境教育や、地域住民への啓発を通じて、環境問題に対する意識向上を目指す取り組みが宣言内容に反映されています。
- フィールド活動:多くのNGO/NPOは直接的な現地活動を通じた、生態系保全や自然再生への貢献を記述しています。特に、植樹や野生生物の保護に関する取り組みが宣言内容で強調されています。
3. 傾向のまとめと今後の展望
全体的に、各団体の宣言には生態系の保全と再生可能エネルギーの利用が中心的なテーマとして見られました。しかし、再生可能エネルギーの利用には、生物多様性保全とトレードオフになっている場合もあり、注意が必要な取組の一つです。気候変動対策と生物多様性保全の両立を視野に入れることが今後重要になってきます。また、企業、自治体、NGO/NPOの各団体種別に応じた取り組みの特徴が見られ、企業は事業活動への環境配慮、自治体は地域連携、NGO/NPOは教育・啓発活動に力を入れており、各団体のアクションは地域との協働を通じて進められていることが強調されています。
この結果を基に、今後のアプローチとしては、異なる団体間での連携を強化し、各団体の得意分野を活かした持続可能な取り組みがさらに広がることが期待されます。
■なぜ今、ネイチャーポジティブ宣言に参加すべきか
現在、ネイチャーポジティブ宣言には多くの企業や自治体、NGOが参加しており、ますます勢いを増しています。しかし、まだ多くの団体が参加していないのが現状です。ここで宣言に参加することは、単に環境保全への貢献を意味するだけでなく、以下のような大きなメリットをもたらします。
- 社会的信用の向上
ネイチャーポジティブ宣言に参加することで、貴社や貴団体の環境への取り組みを公に示すことができ、社会的な信用が向上します。これは、特に環境意識の高まる現代において、消費者や投資家からの支持を集める重要な要素になると考えられます。
「ネイチャーポジティブ宣言」を登録した団体は、宣言団体のみが使用可能なロゴマークを使うことができます。本ロゴマークは、活動の実績や社会的インパクトを強調することにも活用できます。
ネイチャーポジティブロゴマークの使用例(出典:西武ホールディングス, イニシアティブへの参加・社外からの評価よりスクリーンショット, 閲覧日:2024年12月18日)
- パートナーシップの構築
この宣言は、異なる業種や分野の団体とネットワークを構築する絶好の機会です。新しいパートナーとの協働を通じて、より大きな影響を与えるプロジェクトを実現することが可能です。 - 持続可能な未来への投資
環境への取り組みは、未来への投資です。自然資源を持続的に利用し、環境保全に貢献することで、将来の社会やビジネスの持続可能性を確保することができます。
■参加方法
ネイチャーポジティブ宣言に参加するためには、以下の手順を踏むことができます。(詳しい申請手順はこちら)
- 公式ウェブサイトを訪問
まずは公式ウェブサイト(ネイチャーポジティブ宣言)を訪問し、参加フォームに必要な情報を確認してください。 - 宣言内容を決める
自社または自団体の自然保護に向けたアクションプランを作成し、宣言内容として提出します。具体的な目標を設定することで、貴団体の活動を明確に示すことができます。その際には、「宣言フォーマット」を利用することができます。 - 宣言を入力・送信する
宣言フォームを開き、団体情報や宣言内容の入力・送信をお願いします。こちらのリンクより、宣言フォームへのアクセスが可能です。Googleツールを使用できない団体は、「宣言フォーマット」(Excelシート)に入力の上、事務局(shizen-suishin@env.go.jp)宛に送付してください。
最終的に、ネイチャーポジティブ宣言の参加団体として登録され、活動内容が公開されます。これにより、他の参加団体や社会全体と共有することができます。
また、「ネイチャーポジティブ宣言」を発出、登録した団体には宣言の登録後にロゴデータが送付されます。このロゴマークは宣言を登録した団体のみが使用することができます 。
■未来への第一歩を一緒に踏み出しましょう!
ネイチャーポジティブ宣言は、持続可能な未来を築くための重要な取り組みです。今こそ、環境と共に歩む企業・団体としての一歩を踏み出しませんか?自然を守り、次世代に美しい地球を残すため、私たちと一緒に行動しましょう!
ご不明点は、よくあるQ&Aをご参照ください。また、貴団体の宣言が、生物多様性国家戦略のどの基本戦略に関わるのか良く分からない場合はお問い合わせ先のメールアドレスからお気軽に連絡ください。
公式ウェブサイトはこちら!