現在、「ネイチャー・ポジティブ」な世界の実現が、グリーンウォッシュによって脅かされうることが最新の研究で明らかになっている一方で、グリーンウォッシュへの法的な対応が世界的に進んでいます。この記事では、グリーンウォッシュに対する法整備の動きと、司法の関与の動向、そしてそれを防ぐための提言を紹介します。
グリーンウォッシュとは
気候ネットワークによれば、「グリーンウォッシュ」とは、実態を伴わない環境配慮で自社や商品のイメージを高め、消費者を誤認させる広報戦術のことを指します。グリーンウォッシュの問題点は、2点指摘されています。
- 消費者の誤認:環境問題解決に貢献したいと考える消費者が、実際には環境保護に繋がらない商品を選んでしまうことになったり、真に環境配慮に取り組む企業の商品を目立たなくさせてしまう可能性があります。
- 必要な取り組みの遅延: 実際の環境問題が隠蔽され、企業の環境主張が科学的根拠に基づいていない場合、政策決定者、消費者、投資家が真の進展を把握することを困難にし、必要な取り組みを遅らせる可能性があります。
日本自然保護協会は、「大型陸上風力発電計画の自然環境影響レポート2024」の中で、風力発電計画が地域の自然環境や生態系に与える影響を分析し、環境に優しい技術と捉えがちな風力発電の日本の現状の課題を浮き彫りにしています。
このレポートの中では、自然環境への配慮が不十分とされる企業の中にも、ウェブサイトや広告その他で「グリーン」な会社をアピールする表示している企業が見られます。
1.グリーンウォッシュに対する法整備の動き
グリーンウォッシュに対する法整備の動きは、①消費者保護からのアプローチと、②金融セクターへのアプローチの2つがあります。
■消費者保護からのアプローチ
例として、EUのグリーンウォッシュ(実質を伴わない環境訴求)を禁止する指令案(不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令)が挙げられます。
この指令は、グリーンウォッシュ表現を具体化し、制裁を強化しています。特に、グリーンウォッシングを用いたマーケティング方法を禁止することで、「消費者」が製品を購入する際に、適切な情報を得た上で判断できるようにすることが目的とされています。
このような法律は、消費者をエンパワーメントするだけでなく、企業の判断予見可能性を高めることにつながると考えられます。
一方、日本では景品表示法に基づく現行法で対応が行われている状況であり、指令のような抜本的な改正は行われていません。
ただし、景品表示法には規制対象の限界が指摘されています。この法律は主に商品やサービスに関連する表示を規制するものであり、企業のイメージムービーやブランドメッセージといった会社全体の魅力を発信する広告には適用されない場合があります。一方で、欧州ではこうした表示も規制対象となっています。
■金融セクターへのアプローチ
例として、日本の金融庁のESG投信におけるグリーンウォッシュを排除することを目的とした取り組みが挙げられます。金融庁は、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針を一部改正し、ESG投資信託の範囲を明確化しています。
このようなアプローチは、金融セクターが脱炭素化社会への移行に対して重要なアクターであり、適切で正確な情報開示の評価が不可欠であるとの認識に基づいています。
日本の場合は、現状として定量的ではなく定性的な開示、法律ではなくガイドラインにとどまっています。
2.グリーンウォッシュへの司法関与(規制当局による規制や訴訟)
■日本の事例
日本では、日本最大の石炭火力発電事業者であるJERAの広告について、気候ネットワークと環境法律家連盟が共同で、「誤解をまねく広告をなくし消費者から信頼される良い広告を育てる」ことを目指す公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)に、グリーンウォッシュと考えられる広告を中止するよう勧告を求める申立を行っています。
問題とされている広告は、JERAの「2050年CO2ゼロ」「CO2の出ない火」「ゼロエミッション火力」を標榜する広告です。
この広告に対し、火力発電所は、水素やアンモニアを燃料としたにしても、化石燃料を直接的・間接的に使用する限り、地中に貯留されていた炭素を大気中に放出することになり、「CO2が出ない」とは言えず、消費者に誤解を与える可能性があると指摘されています。
■海外の事例
海外の動きの例として、2024年3月20日のオランダの航空会社KLMの広告に対するアムステルダム地裁の判決が挙げられます。
これは、環境保護団体がKLMを相手取り、同航空の環境配慮に関する広告が消費者に誤解を与えたとして訴訟を起こした事案になります。
裁判所は、KLMが環境保護への野心について行った主張のいくつかが、あまりにも漠然としているため誤解を招き、オランダ民法や改正前のEUの不公正取引指令に違反すると判断しました。
いくつかの広告が問題になりましたが、例えば、アムステルダムのスキポール空港のブランコに乗る子供の看板に関連したKLMの「より持続可能な未来を創るために私たちと一緒に働きましょう」という声明が問題になりました。これに対し裁判所は、「同社で飛行することが環境上の利益とどのように関係するかを説明していない」と判断しました。
また、「持続可能性への貢献」との言及ではあいまいで、環境主張は虚偽の情報を含んではならず、消費者に誤解を与えないよう、明確、具体的、正確かつ明白な方法で表示されなければならないと裁判所は判断しています。
イギリスでは、イギリスの広告基準協議会(ASA)の対応が例として挙げられます。
2023年7月、ASAは、フランスのエールフランス航空、独ルフトハンザ航空、アラブ首長国連邦(UAE)のエティハド航空に対し、環境への影響について誤解を招く広告を禁止すると発表しました。
ASAは、航空会社だけではなく、自動車会社やメガバンク等の広告に対してもグリーンウォッシュに関連した広告を禁じる対応を行っています。
3.グリーンウォッシュを見抜くために:気候ネットワークの提言を参考に
日本では、企業の取り組みが景品表示法の優良誤認に該当すると考えられる例が多いものの、野放しにされていると指摘されています。また、規制される表示の範囲が狭く、海外と基準を揃え、企業ブランドメッセ―ジも対象とするべきなどの意見もあります。
グリーンウォッシュの法的規制は「いたちごっこ」とも揶揄されることがあり、企業や、適格消費者団体が、真摯に環境問題に対して内実を伴った取り組みを行うことや、広告・クリエイティブ製作段階で専門家の助言が得られるようにすることなどが重要になります。
以下は、気候ネットワークの提言を参考に、生物多様性の観点から、グリーンウォッシュに陥らないためにチェックできるポイントです。
1. 事実に反する情報が含まれていないか
- 生物多様性への影響や取り組みについて虚偽の情報が記載されていないでしょうか。
2.重要な情報が隠されていないか
- 一部の情報のみに焦点が当てられ、他の生物多様性への負の影響が隠されていないでしょうか。
- 例えば、「地域の植林活動を支援しています」「植林活動を行っています」と一部の活動を強調しつつ、他の部分で重大な生態系への影響を与えていないでしょうか。(他地域での大規模な森林伐採など)
3.製品のライフサイクル全体が考慮されているか
- 商品・サービスの生産から消費までの全過程での生物多様性への影響が考慮されているでしょうか。
4.あいまいな表現がないか
- 具体的な裏付けがなく、「グリーン」「サステナブル」「生態系に優しい」「自然を守る」「環境配慮」などの漠然とした表現で書かれていないでしょうか。
- 貢献の具体的な範囲や効果を示さず、「自然保護に100%貢献」といった誇張表現が使用され、実際には限られた活動に留まっていないでしょうか。
- 具体的な進捗や実施計画を示さず、「生物多様性保全に取り組んでいます」「2030年までに自然を守る取り組みを強化」といった表現を使用していないでしょうか。
5.根拠が示されているか
- 「グリーン」「サステナブル」「生態系に優しい」「自然を守る」「環境配慮」といったあいまい・抽象的・一般的な表現が、具体的な裏付けを欠いていないでしょうか。
- 環境配慮や生物多様性保全の根拠は示されているでしょうか。
- 第三者認証を取得していないにもかかわらず、取得していると誤認させる書き方になっていないでしょうか。
6.その方法が、本当の意味で生物多様性保全に資するようになっているか
- 「カーボンニュートラルの達成に貢献」「再生可能エネルギーを利用」と表記しながら、生物多様性保全に与える影響が無視されていないでしょうか。気候変動対策と生物多様性保全の両立はなされていますか。
まとめ
グリーンウォッシュは、消費者の信頼を損ない、環境保護の進展を阻害する深刻な問題です。企業が環境配慮の姿勢をアピールしつつ、その実態が伴わない場合、消費者や政策決定者、投資家の行動に悪影響を及ぼします。
グリーンウォッシュを防ぎ、「ネイチャーポジティブ」な未来を実現するためには、法整備やガイドライン、司法の関与に加え、社会全体が具体的かつ実効的な取り組みを支持し、持続可能な行動を促進する必要があります。
ネイチャーポジティブをめぐっては、グリーンウィッシュ(企業が保全に寄与するだろうと思った取組が実態は規模が小さく効果が少ない(生息域に対し植林面積が狭くてシンボルの猛禽類の保全には寄与してない)ため、結果として実態を伴わない広告等になっている)や、グリーンハッシュ(保全に寄与すると思って行った行動が、知識不足によるもので実は負の効果をもつ活動(例:子ウミガメの方流会)で、結果として実態を伴わない取組になった)と評される行動もあります。違法といえないまでも社会的には誠実でないコミュニケーションなどが生じるため、気候の事例以上に配慮が必要になってきます。