IUCN本部のあるグランという町は、国際都市ジュネーブの郊外といった町で、駅前と国道沿いにお店があるほかは、地図でみると住宅と農地と多少の森で構成される景観です。時間があったことから2時間ほど散策しました。ガイド付き「特別な場所」を訪れたわけではなく、地図を見ながらの「何かありそう」という散策でしたが、自然環境への意識の高さが観られました。スイスの“普通の田舎町の景観”をご紹介します。

住宅の雰囲気

おそらく普通の住宅街のはずですが、とてもきれい、という印象を抱きます。住居と道路を区切る外壁もありますが、生垣も多く、ほぼすべての生け垣は丁寧に管理されていて、管理放棄された住居というのはたまたまかもしれませんが一つもありませんでした。

綺麗に剪定された生垣

犬の糞を入れる袋と、ごみ箱が町の至る所に存在

ハロウィンの飾り付け。かわいい系のかぼちゃではなく、ちょっとリアルなゴーストを飾る風習らしい。

子供の遊具などがある公園には、好きな時に本を借りたり置いたりできるコミュニティーブックboxや、虫のホテルと名付けられた昆虫の隠れ家などが普通に設置されていました。グランの自治体の手によるものの様です。

昆虫のホテルの解説版(木材で出来た看板)

レンガの部屋、藁の部屋、薪の部屋など、最上階は松ぼっくりの部屋になっています

再生農業(リジェネレティブアグリカルチャー)

グランは見る限り麦系の生産(収穫が終わっているので予想です)に加え、リンゴや、ワイン用のブドウの生産が盛んなところと思われます。驚いたのは、リンゴ園もブドウ園も、再生型(リジェネレイティブ)の農業(アグリカルチャー)と呼ばれる土地を耕さずに土壌を再生させながら農業を行う農法が浸透しているところです。

農業では耕すという行動は雑草を抑える当たり前の行動として行われてきましたが、その常識は少しずつ変わろうとしています。不耕起に加えカバークロップと呼ばれる土壌表層を覆う草を生やすことで、その根が土壌に広がり、根が生み出す微空間に土壌生物や土壌細菌などの活動や土壌における有機物の蓄積を増やすことで、生産性・炭素固定などの長期的な効果を得ようとするものです。

また、農地に列状の樹木帯を設定し、将来的には気候変動への適応策として日陰を創出しようとしている様子もうかがえました(英国での試行から、スイスでも同様のものだろうとの推測です)。

森林にはフットパス

地図上で森になっているところにダメ元で近づいてみたら、運よく林内の散歩道に入ることが出来ました。ここでも子供の遊び場のような空間や、1945年頃にコンクリートで直線化してしまった水路を2019年に蛇行させる再自然化の取組みがされていました。

IUCN本部から2時間もしない散策だったのですが、いくつもの自然保護の取組みにそこかしこに出会えることの素晴らしさを実感しました

国際自然保護連合日本委員会
事務局長 道家哲平