2019年に研究のためにジンバブエに長期滞在したのが最後、4年ぶりにアフリカ大陸に足を踏み入れました。SBSTTA25に参加し、Wildlife Managementと、生物多様性&気候変動の議論の動向について追っています。

本記事では、”Sustainable hunting for conservation”に焦点を当て、持続可能な狩猟の定義や重要性に触れた後、その実践の難しさと、国際的な取り組みに触れたいと思います。

1. 野生生物の持続可能な利用(Sustainable use of wildlife)

1992年に採択された生物多様性条約(CBD本文)では、“Sustainable use”は以下のように定義されています。

Sustainable use: defined as ‘the use of the components of biological diversity in a way and at a rate that does not lead to the long-term decline of biological diversity, thereby maintaining its potential to meet the needs and aspirations of present and future generations’ (Article 2, CBD 1993).

2. 野生生物の狩猟(wildlife hunting)とは

次に、野生生物の狩猟とは何かをもう少し詳しく整理します。

野生生物の狩猟 は大きく以下3つのカテゴリーに分かれます:

  • Subsistence hunting(自分達の食料のため)
  • Recreational hunting (レジャー目的だが個体数調整・管理手段としても機能)
  • Commercial hunting (販売目的)[1], [2]。

Subsistence huntingは、特にlocal community とIndigenous people (IPLCs)の主要なプロテインやカロリーの摂取を提供しますが、人口増加や商用化されることでその需要が高まった場合、”bushmeat crisis”という状況に陥ります。Bushmeat crisisとは、人々のbushmeat(野生動物の食用肉)の消費が持続可能なレベルで行われず、絶滅に追いやり、bushmeatに依存するIPLCsの食料安全保障を脅かす危機のことです。

そのため、subsistence hunting は観光客には禁止し、bushmeatに依存するIPLCsに限定して認めている国や地域があります(例えばブラジルや南アフリカ)[1], [2]。

Recreational huntingには、レジャー目的の狩猟(i.e., トロフィーハンティング:仕留めた証しとして飾る剥製などの個人的な記念品(トロフィー)を目的とした野生動物の狩猟)だけでなく、外来種対策の一環や、生息地拡大や個体数の増加による野生生物の個体数管理のための狩猟も入ります。レジャー目的のトロフィーハンティングのターゲットとなる種は、ライオンや大きな角を持つ大型アンテロープなどの体サイズが大きく、「強い」という象徴をもつ種に偏る傾向にあるため(CITES )、この人気種の個体数減少に寄与し、結果的に絶滅に追いやることも指摘されています(Nogueria 2011; Minin 2019)。

そのため、保全を目的に特定の野生動物の剥製等(トロフィー)の輸入を規制している国があります。例えば、イギリスやベルギー、オランダ、フィンランドなどのヨーロッパ諸国は、特定の絶滅危惧種由来のトロフィー輸入を禁止しています。 個体数調整のための狩猟は、例としてニホンジカの個体数管理が当てはまります。しかし、この個体数管理のための狩猟の効果は、その種や地域、管理体制などによってさまざまなようです[1]。また、個体数管理のためのハンターの担い手の不足は、日本を含む多くの国で課題となっています[1]。

※これら3つのhuntingの区別は、それぞれが重なる部分があり曖昧なようです。

※このトロフィーハンティングには、限られたスペースに野生動物を放し狩猟するCanned huntingは入っていないことに注意。IUCNのポリシーでは、このCanned huntingは認められていないです(IUCN Recommendation 3.093, “Application of the IUCN Sustainable Use Policy to sustainable consumptive use of wildlife and recreational hunting in southern Africa”, 2004)。

CBDではこれまで、特にbushmeat目的のwildlife useに焦点が当たっていましたが、伝統薬やペット目的のwildlife useも野生個体群の減少に寄与していることから、bushmeatを超えたwildlife useの管理が必要であるという認識が広がっているようです(CBD SBSTTA25/11)。

3. 保全のための持続可能な狩猟

CBD及びCITESは、野生生物の保全のために「sustainable hunting」の重要性を強調しています。特に、そのような狩猟が保護地区の管理や保全活動の資金源になり得ることが指摘されています。

“such uses as hunting, fishing and tourism can be important sources of funding for the management of protected areas and for conservation agencies.”(CBD SBSTTA25/11)

サハラ以南のアフリカにおける具体的な数字を見ると、保護地域の効果的な管理には年間460~2,048USドル/km2の資金が必要とされ、トロフィー・ハンティングから得られる収益は年間138~1,091USドル/km2と推定されています[1]。

では、”sustainable hunting”とは具体的に何を意味するのでしょうか。
IUCNによると、持続可能な利用の中には、採取的な利用(野生生物の狩猟、植物の収穫、漁業など)と非採取的な利用(野生種の観察、同定、写真撮影など)の両方が含まれるようです。

Sustainable use includes both extractive forms of use (e.g., wildlife hunting, plant harvesting, fishing) and non-extractive (e.g., the watching, identifying, photographing of wild species).

UNのSustainable useの定義から考えると、sustainable huntingは、それ自体が個体群の減少に寄与しないHuntingであれば成り立つことになります。つまり、huntingによるpressureが繁殖能力を超えると、unsustainableになります。

FAOによると、「持続可能な狩猟とは、狩猟個体数が長期的に「持続可能なレベル」を維持できるような狩猟方法を指し、狩猟が文化的、栄養的、経済的、生態学的なサービスを将来の世代に提供し続けられるような方法を指す。」とされています。

Sustainable hunting refers to hunting practices that allow for the hunted population to maintain “sustainable levels” in the long term in a way that hunting can continue to provide the cultural, nutritional, economic and ecological services to future generations.

つまりここの定義では、持続可能な狩猟とは、文化的、栄養的、経済的、生態学的なサービスを将来の世代に提供し続けられるような狩猟だそうです。

CITES も、資源(特に資金)を保全のために利用する観点から、「well-managed」や「well-controlled」な狩猟の重要性を強調しています。

4. Sustainable huntingの実施の難しさ

理論的には、持続可能な狩猟は、適切に管理されれば生物多様性の保全に資する手段となり得ます。しかし、その実施や管理の複雑さは否めません。

具体的には、「誰が、どこで、何の目的で、何を、huntingするか」という要点を全面的に考慮しなければなりません。これを詳細に考察すると、sustainableかどうかの判断がより困難になると感じます。また、倫理的問題や人獣共通感染症の感染拡大といった、保全とは異なる側面の課題にも注意が必要です。今回の記事ではこれらの課題は深く触れませんが、sustainable huntingが実践的に可能となるには、これらの問題も考慮する必要があると思います。

5. 国際的な取り組み

上述した問題を解決するための取り組みとして、Cooperative Partnership on Sustainable Wildlife Management (CPW)による「sustainable use of wildlife」のためのガイドラインの策定が進められています。CPWはCITES(ワシントン条約)、IUCN、CMS(移動性野生動物種の保全に関する条約)をはじめとする13の団体からなるパートナーシップで、CITESの第13回締約国会議で設立されました。先述のとおり、当初は特にbushmeatへの問題意識が高かったために、すでにbushmeatに関するガイドライン は出ています

このbushmeatに関するガイドラインでは、合法的かつ規制されたbushmeat消費の促進と、非持続的な違法bushmeatの需要の削減を目指しています。このガイドラインを通じて、政策立案者や法的機関は野生生物資源の保全と持続可能な利用のための有益な情報を得られると期待されています。

そして、今回のSBSTTAで取り上げられたアジェンダ6では、このガイドラインを基盤としてGBFのターゲット5の達成を目指す方針が議論されました。どのようなガイドラインになるかについては、今後の動向に注目していく必要があります。

最後に

新しい略称や専門用語が次から次へと出てきて、それらの意味や関連性を理解していくモグラ叩きのような作業の中で学びが多いものの、底なし沼にハマったようにも感じます。今回取り上げたもの以上に、多くの研究や国際的な取り組みがあることを考えれば、クリアにしていかないといけない情報はもっともっとあります。ただ、落ち着いて一歩一歩進めばその沼から抜けることができると期待し、今後も着実に取り組みを続けていきたいと思います。そして、ただの情報提供で終わることなく、次のアクションに使える情報(インテリジェンス)を提供できるよう努めていきたいな、と思います。

引用

  • [1] E. Di Minin et al., “Consequences of recreational hunting for biodiversity conservation and livelihoods,” One Earth, vol. 4, no. 2, pp. 238–253, 2021, doi: 10.1016/j.oneear.2021.01.014.
  • [2] S. S. C. Nogueira and S. L. G. Nogueira-Filho, “Wildlife farming: An alternative to unsustainable hunting and deforestation in Neotropical forests?,” Biodivers. Conserv., vol. 20, no. 7, pp. 1385–1397, 2011, doi: 10.1007/s10531-011-0047-7.

安家叶子