SBSTTA初日の本会議では、指標(議題3)と科学技術ニーズ(議題4)の意見表明が行われました。SBSTTA26のプレナリーは、YouTubeでも見ることが可能です(コンタクトグループは公開されません)。
指標について
生物多様性プランの指標に関して多くの国から意見が出されました。指標に関する文書は複数項目に渡るので、大まかに解説すると、ヘッドライン(4つのゴールや23の目標の世界レベルの実施状況を測る)、ヘッドラインの活用、要素(Component:各目標に含まれる各要素を測る)、補完(Complementary:補完的に機能する)として機能する4つの指標の更新作業について、専門家会合(指標AHTEG)に付託して実施した作業を基に、検討する議題です。
専門家会合は複数の会合を通じて指標について検証し、目標との科学的整合性や、重複の削除、指標の解説などが行われる他、活用可能なデータベースとの整合の取り方などもまとめられています。また、定量化が難しい目標については、バイナリー(アンケートを通じて実施状況を測る)指標をヘッドライン指標として活用することになっています。
見本を示すと、目標3で言えば、
- ヘッドライン:保護地域とOECMの面積
- 活用(disaggregation手法):生態系毎の保護地域カバー率、重要生物多様性地域の保護地域でのカバー率、
- 要素:保護地域連続性指標(Protected Area Connectedness Index (PARC-connectedness))や生物種保護指標(Species Protection Index)
- 補完:IUCNグリーンリスト、良好な状況にある生物多様性重要地域の割合
といった形です。簡単に言えば、下に行くほどテーマに焦点を当てた形となっています。
バイナリー指標とは、定量化が難しい目標について、締約国へのアンケートの結果で成果を測る手法です。例えば、目標17(生物安全保障)、目標22(参加)、23(ジェンダー)などは、統計もないことから、バイナリー指標(アンケートによる進展把握)で管理するイメージです。アンケートの設問と、設問の趣旨も専門家会合で整理されました。アンケートの設問については、まだ合意しきれてない部分もあり、提案も複数ありました。
初日の意見表明の流れを簡単に整理すると、
- 各指標の妥当性に関する意見や改善提案
- COP16以降の改良作業の内容やプロセス
- 指標の実務化に向けた課題(国内における枠組み作り、国際DBとの連携、データ収集、世界レベルの情報の国内活用、能力養成、指標の国内制度への組み込み方法、IPBESとの連携(IPBESへの依頼))
などの論点が各国から示されました。
全体としては、指標を待つことで行動を遅らせてはいけない、複雑な指標の管理のために実施への努力が減少してはいけない、評価のためだけの指標になってはいけない(行動と指標がリンクすること、各国やの当事者意識を高めること)、加盟国が実施できる指標を目指したい(そのための能力養成が大事)という意志は見えました。まだまだ理想とのギャップがあり、改良点への意見は相次ぎました。
ジェンダー・先住民地域共同体(IPLC)・NGO・ユース等も意見を出しました。それぞれのグループの関心や懸念を指標の中で反映してほしいとのテーマでした。ジェンダーやIPLCは、それぞれの視点の反映を、NGOは、保護地域の質の指標の不足(行動目標3)、企業による生物多様性への悪影響の把握の欠落(目標15)、生物多様性オフセットに繋がる議論への懸念を表明しました。
国連・国際機関も指標の確定に向けた支持を表明するとともに、全体調整の重要性や、データ取得への資金投資の重要性なども指摘されました。
これらの意見表明を受け、SBSTTA議長は、Non-Paperを作成の上、バイナリー指標作成のためのコンタクトグループの設立を宣言しました。決定案については、プレナリーで議論されます。
科学技術ニーズ(議題4)
この議題は、生物多様性プランの合意を受けて、過去のCBDの取組みとの整合や、必要な新しい活動領域をまとめた議題と、IPBESとの連携に関する議題となっています。
必要な新しい活動として、生物多様性を組み込んだ空間計画(Biodiversity-inclusive spatial planning)、汚染と生物多様性(Pollution and biodiversity)、生物多様性に根差した活動、製品、サービスおよびバイオエコノミー(Sustainable biodiversity-based activities, products and services and “the bioeconomy”)、保全や持続可能な利用に関係する構成や人権ベース手法(Equity and the human rights-based approach relating to the conservation and sustainable use of biodiversity)などがあります。一方で、多くのツールや手法も特定されており、文書では、実施に必要な十分なツールがあるとの結論になっています。
過去の取組のギャップでは、淡水における持続可能な漁業、人と自然の衝突、多様なセクターの主流化に関するガイダンスなどは、新規の要素として現在取り組まれていない、ギャップとして指摘されています。
プレナリーでは、非常に多くのギャップが指摘されているのですが、資源や時間の制約などから、優先度を決めて、取り組むべきという意見が多く見られました。取り組むべき課題については、国ごとに推しのテーマが異なっているのが、今後の交渉でどう解決されるかも今後の課題のように思いました。
IPBESとの連携については、全般として連携強化を望む声がほとんどですが、ファーストトラックアセスメントのテーマについては、優先度や新規の評価項目について、複数の意見が出されていました。
国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平
*今回の国際情報収集・発信業務は、経団連自然保護基金、地球環境基金の助成、ならびに、IUCN-Jへのご寄付を基に実施しています。このような情報発信を継続するためにも、IUCN-Jの活動へのご寄付をお願いします