IUCN-RCFの3日目では、IUCN世界遺産プログラム長であるTim Badman氏と、私の専攻分野である世界遺産に関して自然遺産と文化遺産それぞれの考え方、世界遺産基金について、世界遺産地域における住民と自然保護団体の関係などについてインタビューをし、意見をいただくことが出来ました。

 

 まず一つ目の、自然遺産と文化遺産とでそれぞれの価値を分けて考えている現状に関して彼自身の考えを伺いました。彼は、「これまで全ての遺産について文化と自然への関心を一つにまとめ、地域社会や地元の人々に焦点を当てたアプローチを取ろうとしてきた。なぜならほとんどの遺産には地元の人々が重視する他の重要な自然の価値があり、故に文化遺産には重要な自然の価値があり、自然遺産には重要な文化の価値がある。しかし、遺産が遺産の境界に縛られるべきではなく、世界遺産に制限されすぎないようにする必要がある。そのため、私たちは世界遺産リーダーシッププログラムを実施してきており、全ての遺産を対象としている。故に私たちは自然遺産と文化遺産を含めた全ての遺産を対象にしたアプローチをとっている。そしてそれは、条約でより多くの多様な世界観を認めるための方法であり、私たちは文化と自然がつながっていることを認識することで、異なる文化、異なる地域、異なる伝統をよりよく認識できるようになることをもっと望んでいる。」と述べられました。彼は文化遺産と自然遺産にはそれぞれが自然の価値と文化の価値を持っており、それらは切り離せない関係にあるので、もっとこれから双方を共に認識していくアプローチを考えていました。

 

 そして2つ目の世界遺産基金に関する質問をしました。これは、現在世界遺産基金は多くが新規登録に当てられており、世界遺産の価値を維持させるための保存や保全活動にあまり当てられていない現状から、保存や保全にもっと資金を当てるべきではないかという私自身の意見も混ぜながら、世界遺産基金の使い道に関してTim氏に意見を伺いました。彼は、「世界遺産基金の最大の問題は2つあり、1つ目は規模が非常に小さい事、2つ目は非常に官僚的であるという事である。世界遺産基金から資金を得るのは現在非常に困難で複雑であり、IUCNは世界遺産条約は遺産の保全を確実にし、遺産をリストに載せるづけるべきではないという見解を持っている。と共に、私たち(IUCN)の新しい戦略ではリストにもう少し重点を置くべきであり、自然保護の価値に基づいて遺産をリストに載せるために条約を利用することも奨励したいと思っている。だが、原則としてはやはり世界遺産基金は遺産の保全に十分な支援を提供するべきであり、危機遺産については費用のかかる行動計画を持つべきであるため、それらを実現させるための資金づくりとして、現在ユネスコから独立した、別の資金調達メカニズムを望んでいる。」と述べられました。この事から、現在の資金に関する課題が見られ、自然保護に基づいた遺産リストの作成やユネスコとは別からの資金調達などを考慮していることを知り、IUCNにおける世界遺産基金に対する動きや考えを知る事が出来ました。

 

 最後の質問は、世界遺産地域で生活を営む住民と自然保護団体などとの関係性に関して質問をしました。Tim氏は「世界遺産プログラムでは地元の人々と協力する必要が必ずあり、地元の人が必要とするのはどのような世界遺産プログラムなのかという事であり、遺産だけでなく、遺産周りの地域などの経済的及び社会的問題にとって重要な地域全体を対象にする必要がある。遺産と地域との関わりや生活などはそれぞれの遺産で異なる形をしているので、単一の答えはないが、どんな場合でも保全計画の目的を維持する方法を考えだすと共に、人々のニーズを満たす方法も見つけ出す事が大切であり、理由としては地元の人々のサポートがなければ長期的な保全は難しいと考えるからだ。したがって、現場レベルでのアプローチで取り組む必要があり、そのアプローチとしては地元の人々の関与を考慮し、より広い範囲で考慮し利益にも焦点を当てる。そして私たちが取り組もうとするために、様々なスキルを持つ必要がある。」と述べられました。現在自然遺産などの地域住民と自然保護団体との考えの乖離が見られる遺産も一部ある中で、このTim氏の言葉はとても価値のあるものだと感じます。IUCN全体としても双方が納得した形でお互いの利益をサポートし合うという関係性がおそらく重要であると考えます。

 

 今回Tim Badman氏にインタビューさせていただいたことは、自分が以前から抱えていた世界遺産制度への疑問や思いを伝えることが出来、かつIUCNとしての考えをTim氏の言葉から教えてもらうことが出来たので、非常に意義のある時間になりました。このインタビューを通して、世界遺産は自然的価値と文化的価値は双方とも切り離せない関係であることや、資金集めに関してIUCN側も非常に難しい問題として捉えており、中々長期的な問題となる可能性が高いこと、地域住民との良好な関係に基づいた保全活動の必要性が高いと感じました。故に、世界遺産基金などの資金調達メカニズムを考えると共に、遺産における自然的価値と文化的価値の双方の関係を尊重した上での保全活動などを行い、世界遺産全体の価値を維持することが大事であると考えます。

IUCN-Jインターン/筑波大学大学院修士1年
大久保 澄