9月4日に開催されたサイドイベントEcosystem restoration through nature solutions on strategyに参加しました。このサイドイベントではネパールのIUCN会員により、ネパールで行われている生態系や生物多様性の回復のための活動が紹介されました。

 

ネパールの国土は、世界の陸地の0.1%程度しかありませんが、その生態系は、哺乳類全種の約5%、植物種の約3%、鳥類種の約10%を支えています。そのため、現在24%程の土地が保護地域に指定されています。しかし、様々な要因によりネパールに生息している哺乳類のうち約4%が絶滅の危機に瀕しているのが現状です。その要因の一つとして、地方の道路建設が挙げられていました。建設のための森林伐採や泥の堆積による水流や川幅の変化は、山と川の生態系に大きな影響を与えています。

そこで、ネパールでは、保全においてアプローチすべき6つの柱を設定しました。それは、Institution(制度)、Community(地域社会)、Co-ordination & Collaboration(調整および協力)、Technology(技術)、Legal Framework & Prosecution(法的枠組みおよび起訴)、Capacity(収容力)です。保護活動には、地域社会や政府機関との協力が必要不可欠であり、それらとのパートナーシップや有意義な参画がなければ、持続的な保護活動は行えません。そのため、中でもコミュニティの主流化と継続的な協力が重要であると述べられていました。そして、現在、保護活動の焦点はトラやヒョウ、サイなどの大型哺乳類に当てられています。

まず、絶滅危惧種の回復について述べます。上に示したトラ柄の絨毯は、彼らが販売している商品で、その売り上げの一部をトラなどの絶滅危惧種の保護活動に回しているそうです。この絨毯は、Girardinia diversifolia(ヒマラヤイラクサ)というネパール原産の植物を原料に作られています。この植物は、ヒマラヤの農地に不向きな地域に生息しており、その繊維を用いて以前より織物やカバン、衣類などが作られてきました。

また、保護地域とランドスケープの管理も重要な保護活動です。ネパール全土の24%を保護地域が占めていますが、中でも大規模なランドスケープを保護することが重要です。そのため、インドと繋がる大規模なランドスケープ(Terai Arc Landscape:TAL)での取り組みに力を入れています。具体的には、トラやサイ、ゾウの個体群の移動を可能にするために土地の分断を修復しています。これにより、種の分散も防ぐことが出来ます。また、小規模の保護地域が大規模なランドスケープの近くに存在することで、絶滅する確立を大幅に低下させることが出来るため、これらの保全も重要です。

他にも、密猟の対策や、生態系の回復とエコツーリズムのような自然を基にした観光を同時に行う活動など幅広く行っています。

このような保護活動のおかげで、絶滅危惧種であるトラが、2005年には126頭しか存在しなかったにも関わらず、現在355頭がネパールに生息しています。また、サイにおいても2005年時点で400頭であったにも関わらず、2021年の調査では752頭も確認されたそうです。

 

しかし、これによって個体数が増えた動物と人間が衝突する可能性が高まりました。そこで、衝突を避けるための取り組みも行っています。例えば、モニタリングによりトラブルを起こす可能性のあるトラを即座に識別し、問題が起こる前に適切に管理するシステムの導入です。しかし、これは根本的な解決策ではありません。トラなどの野生生物と共生するために、動物の行動を変えることはできません。したがって、私たち人間が正しい行動をする必要があります。そのため、野生生物の生態に精通した人々を育成する活動を行っているそうです。この際、若者に環境保護の重要性を伝え次世代の教育を行う、地域社会でのリーダーシップを通じて女性の立場を向上させるなど、SDGsの達成にも貢献しているそうです。

 

生物多様性の損失のおける解決策は、地理や文化、社会的慣習により様々であるため、土地に応じて最適解は異なります。しかし、どの地においても、多様な種の存在は生態系の安定性と回復力を高めることは間違いないでしょう。また、在来種は持続的にその地域に適応した生態系の回復に寄与します。生物多様性が回復すると、生態系サービスを受けることが出来ます。農業や漁業、観光に限らず、全ての業種において可能な限り生態系の回復を心がけて欲しいと思います。

 

 

一般社団法人Change Our Next Decade

坂浦友珠