第5回条約の実施に関する作業部会が終了しました。午前に、NBSAPの改定に関する進捗状況の評価に関する文章ならびに2日目に行ったフォーラムに関する文章を扱いました。午前中は、会場のインターネットが遅いなどで、進行が遅れることがありました。
会議の冒頭にSBI期間中にも国家戦略や国家目標の改定が届き、31ヶ国、100の国家目標が集まったことが分かりました。SBI5期間中に生物多様性国家戦略や国家目標が増える様子は、取り組みの加速を感じさせる良い雰囲気作りになりました。
一方、丸1日以上かけて行われたレビューフォーラムは後述のようにSBIが扱うべき議題数の多さを考えると、こんなに時間を割くのは非効率という理解で終わったように思います。サイドイベントや、地域対話の方がふさわしいという意見がありました。
愛知ターゲットの時を考えると、2010年10月に日本でCOP10が開催され愛知ターゲットが設定されたのち、2014年10月に韓国で開催されたときには「2015年までにNBSAPを改定をする」という目標に対して26ヶ国しか完了できませんでした(日本はちゃんと改定を実施)。これと比較するなら、2022年のCOP15から2年で31ヶ国と2倍以上の速度ということなので各国の対応速度は上がっていると言えることからCOP15の盛り上がりはなお続ていると言えます。
一方、同じく後述しますが、交渉プロセスだけを見ると、2つの2ページにも満たない文章を一日かけて合意形成できないという遅さは(議長による采配もあるのかもしれませんが)、COP16開催前に不安を残す結果となりました。
国家目標や国家戦略の進展
<勧告案>
COP16に送る勧告案には、付属書として国家戦略を改定した国の一覧、国家目標を設定した国の一覧が付いています。作業完了した国に称賛と、作業途中の国に対する改定の取組みを求める内容の勧告案を作りました。改定の際には多様なセクターや自治体等の参加を引き続き奨励しています。
その他、NBSAP改定に関するGEFの資金供与、実施に関する記述をめぐり、多くの時間を費やしましたが、この議題(NBSAPの改定)の範囲の決定のみを残し、一部は、COP16での議論へと持ち越す形となりました。
<議論のポイント>
「NBSAPの改定に関する進捗状況の評価」に関する文書作成の焦点・論点は、NBSAPや国家目標を支援した地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)による支援(GEFの支援が得られなかった国の懸念を記載するか)と、今後の支援に関する言及の仕方になります。
地球環境ファシリティ(GEF)は139ヶ国の支援を承認したのですが、未だ資金が締約国に供出されなかったり、GEFの支援対象国(Eligible Country。主に開発途上国)でも支援を受けられなかったり、GEFの本部がUSAにあることから生じる課題(USAが経済制裁等で送金を止めている国に、送金ができない課題がある)が生じています。
先進国はGEFへの資金供出国としてGEFの取組みを前向きに評価したいのと、GEFには今後NBSAPや国家戦略の改定ではなく実施の方に資金供出を振り向けたいので、多くの国を支援したということを言及したいという意向があり、まだ不十分であることを強調したい途上国との表現の駆け引きが見られました。
この議論は、来週から始まるCOP16にも繰り返される議論です。
COP16の焦点の一つは「資源動員」と呼ばれるテーマで、生物多様性世界枠組みの実施に関する資金をどう確保するのかという論点があります。その答えの一つとして、GEFの中に、世界枠組み基金(GBFファンド)がCOP15を契機に設立されたのですが、仮にそこに資金が集まったとしてもその運用に疑義が生じているなら、資源動員の取組みの効果が下がる、というのが途上国の主張です(これともとに、生物多様性条約が管理できる「新基金が必要」という主張につながります)。
レビューフォーラム
<勧告案のポイント>
今回試行したフォーラムについては、議長まとめを留意しつつ、SBIの正式議題としては入れるのは予算も時間も配分が難しいとの意見が集中し、地域対話の方に価値を見出す国の意見が集中しました。
地域対話や地域間対話の形での今後のフォーラム開催を検討していたところで、公式原語(国連と同じ英・仏・西・アラビア・ロシア・中)の同時通訳がなくなり、交渉を止めることとなり、中途半端な形で[カギカッコ](ブラケットと呼ばれ、文書中に合意できていない箇所であることを示す)のままCOP16勧告案をまとめることとなりました。
国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平