生物多様性条約COP16が開催されているコロンビアは、アマゾン熱帯雨林やアンデス山脈など、地球上で最も生物多様性に富んだ国のひとつ。熱帯アンデス地域には、世界の地表面積の1%弱に過ぎない地域に、全世界の植物種の約6分の1が見られるほどです [1]。しかし、その豊かな自然は、野生生物の密猟という脅威にさらされています。
生物多様性条約と野生生物取引
生物多様性の損失に寄与する大きな要因の中に、過剰採取と外来生物の移入・定着があり、COP15で策定された昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の2030年ターゲットの中のターゲット4, 5,6,9に関連します。
深刻化する密猟問題
Colombia oneというニュースサイトによると、2023年にコロンビア警察が野生生物の密売から救出した動物標本は28,025匹にものぼり、鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類など、様々な種が含まれていました [2]。色鮮やかな南米の鳥類はペットとして、また、爬虫類や両生類はコレクターの間で人気が高く、高値で取引されるため、密猟の標的となっています。
コロンビアの環境省は、「コロンビアで最も絶滅の危機に瀕している象徴的な野生生物種10種」として、アンデスグマ、ジャガー、ワタボウシタマリン、アマゾンカワイルカ、カリブマナティー、コンドル、タイマイ、クロカイマン、ゴールデンポイズンフロッグ、カトレア・トリアナを挙げています [3]。この10種のうち、コンドルとアマゾンカワイルカ以外の8種は、HP上で過剰採取や密猟が個体数減少を招いている要因であると説明があります。
コロンビア政府の取り組み
これまで、コロンビアの税関等による取締りにより、多くの野生生物が差し止め・押収されています。
- 2018年 コロンビアに生息する216匹のヤドクガエルがフィルムケースに入れてドイツへ密輸されそうだったところを空港で摘発された事例。
密輸されかけた216匹の毒ガエルを救出。コロンビアの空港のトイレで | ハフポスト WORLD (huffingtonpost.jp)
- 2021年 数百匹のクモ、昆虫類がスーツケースに隠されており、コロンビアの空港で押収された。
タランチュラや昆虫数百匹、空港で押収 密輸の疑い コロンビア – CNN.co.jp
- 2024年 コロンビアの空港でフィルムケースに入れられた毒ガエルが130匹押収。コロンビアからドイツへ密輸されようとしていた。絶滅危惧種であるヤドクガエルは国際的に人気。
動画:空港で毒ガエル130匹押収 コロンビア 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
またコロンビア政府は、この問題に対処するため、2022年4月に英国のウィリアム王子が立ち上げた違法な野生生物取引に反対する世界的なイニシアチブである「野生生物のための連合」のバッキンガム宮殿宣言に一番最初に署名し、密猟撲滅への強い意志を示しました。
密猟問題解決への道のり:複雑に絡み合う要因
コロンビア政府による密猟対策が実施されてもなお、密猟問題の解決には、まだまだ多くの課題が残されています。なぜなら、密猟の根絶を阻む要因は、以下の3つに集約され、これらが複雑に絡み合っているからです。
- 法制度や規制の不備: 密猟を取り締まる法律が十分に整備されていなかったり、税関での監視が不十分であったりすると、密猟者は容易に犯罪行為を遂行できてしまいます。例えば、密猟に対する罰則が軽すぎる場合、抑止力として機能せず、密猟者を増長させてしまう可能性があります。
- 供給側へのインセンティブ: 野生生物の取引は、密猟者にとって大きな経済的誘因となっています。さらに、貧困といった社会問題も、人々を密猟に走らせる要因の一つとなりえます。
- 野生生物に対する根強い需要: 珍しいペットを飼育したい、欲しいなどという需要が存在する限り、密猟はなくなりません。
これらの要因が複雑に絡み合い、密猟問題の解決を難しくしています。効果的な対策を講じるためには、法整備の強化、監視体制の強化、罰則の強化に加え、密猟を生み出す社会構造や経済状況の改善、そして、需要を喚起しないメディアによる責任ある報道や放送など、多角的なアプローチが必要となります。
日本の役割
日本は、エキゾチックペットの需要大国であり、その需要がコロンビアの野生生物の密猟を助長している可能性があります。
特にメディアは、野生生物の魅力を伝える一方で、その取り扱い方によっては、知らず知らずのうちに消費者の購買意欲を刺激し、密猟を助長してしまう可能性があります。
具体的には、以下のような点が課題として挙げられます。
- 希少性の強調: テレビ番組や雑誌などで、珍しい動物や美しい動物を「希少」「入手困難」などと紹介することで、視聴者や読者の所有欲を刺激し、需要を高めてしまう。
- 飼育の容易さの誇張: 飼育の難しさを軽視したり、安易に飼育できるかのように紹介することで、需要を高めてしまう。
- 野生動物の生態への配慮不足: 野生動物の生態や習性を無視した飼育方法を紹介することで、動物福祉の問題を引き起こす可能性がある。
しかし、メディアはその影響力の大きさから、野生生物の密猟を撲滅するための重要な役割を担うこともできます。
例えば、
- 野生生物の生態や保護の重要性: 正確な情報に基づいた野生生物の生態や、密猟によって引き起こされる問題、保護の重要性などを伝えることで、視聴者や読者の意識変容を促すことができます。
- 野生生物取引の問題の現状: 密猟の実態や、密猟が野生生物や生態系に与える影響、密猟組織とのつながりなどを報道することで、問題の深刻さを社会に周知することができます。
- 保護活動の紹介: コロンビア政府やNGOによる密猟対策、野生生物の保護活動などを紹介することで、支援の輪を広げることができます。
メディアが、その影響力を積極的に活用することで、野生生物の密猟撲滅に向けた大きな力となります。
ROOTs (Rooting Our Own Tomorrows) はIUCN日本委員会とともに、メディア関連企業と協力し、違法で持続可能ではない野生生物取引の抑制に取り組んでいます。
COP16の会場では、IUCN-Japanブースにて、これらの取り組みを発表しています。
ROOTs: https://www.roots-wildlife.org/
[参考資料]
1: Conservation International Japan [https://www.conservation.org/japan/biodiversity-hotspots/south-america]
2: Colombia one 2024/10/12 [https://colombiaone.com/2024/10/12/wildlife-trafficking-colombia/]
3: コロンビア環境省 [https://www.minambiente.gov.co/las-10-especies-silvestres-emblematicas-mas-amenazadas-en-colombia/]
Rooting Our Own Tomorrows 安家, 杉山