生物多様性条約第16回締約国会議再開会合(通称COP16-2)が、2月25日から27日にかけて、イタリアのローマ、国連食糧農業機関(FAO)で開催されます。前日には、FAO・コロンビア政府そして生物多様性条約(CBD)共催でのハイレベル会合や、記者会見が開かれました。記者会見には、アストリッド・ショーメーカーCBD事務局長や、ムハンマド・スサナCOP16議長が参加しました。今回の再開会合には、1460名の登録があり、13環境大臣、13副大臣相当が参加、24日時点で140ヶ国が正式な参加手続き(クレデンシャル確認)を行っていることが報告されていて、注目度が高い会合と言えそうです。

”再開”の背景と議題

2024年10月から11月にかけて開催された生物多様性条約第16回締約国会議、第11回カルタヘナ議定書会議、第5回名古屋議定書会議は、2週間の中で非常に数多くの議決を行いましたが、最終日(11月1日)は深夜12時を超え、11月2日の朝8時くらいにはその日帰国しなければならないなど会議場を後にする国も増え、会議成立要件の131ヶ国を下回ってしまい、「休会(Suspend)」という宣言がされました。今回は、再開会合(Resumed session)と呼ばれる所以はこのようなプロセスにあります。

休会になったため決定に至らなかった議題がいくつかあります。4つの注目議題、①デジタル化された遺伝資源の利用から生じる利益の活用の仕組み(DSI)、②伝統的知識に関する作業計画および検討組織の常設化、③資源動員、④計画(Planning)、モニタリング(Monitoring)、報告(Report)および評価(Review)(頭文字をとってPMRR)が話題となりました。この4議題についてはコンタクトグループが連日連夜何回も開かれた議題です。①,②は何とか議長提案文書が合意されましたが、③と④については時間切れとなり決定に至っていません。そこで今回の再開会合では、決定に至らなかった資源動員、PMRR(指標と、報告枠組みの2文書)、国際協力、資金メカニズムについて、合意をまとめることが求められています。

④については、COP16時の議長提案文書でほぼほぼまとまっている様相ですが、③の資源動員については、COP16で最終提案された議長提案文書に先進国・途上国双方から異論が出ており、再開会合では資源動員戦略(および連動する議題として、資金メカニズム)に議論が集中するものと思われます。

資源動員の論点整理

「2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させることを目指す「生物多様性世界枠組み」の実現のためには、5000億ドルの生物多様性に対して有害な補助金を改善し、2000億ドルの資源を生み出すこと、200億ドルの先進国から途上国への資金の流れを作り出すことが必要とされています。生物多様性のための資金は増加傾向にあるものの目標達成には不十分であり、更なる取り組みと資源動員のための戦略が必要である」、とここまでは全加盟国の共通見解といえるでしょう。この共通認識のもとにこれから必要な資金構造(Financial Architecture)の段になると意見の対立が生じています。

1 資金源

COP16では大きくいうと、先進国はあらたな資金を増やすには、民間を含むあらゆる資金源からの資金増が必要であるという立場を取り、途上国はまずはもっと先進国の供出が必要であるという立場をとっていました。

先進国の中にはあらゆる資金源の中には革新的資金メカニズム(気候対策資金活用(生物多様性にも寄与する形で気候基金を活用)、生態系サービス支払いや、生物多様性オフセットやクレジット)の検討が必要という意見もありますが、途上国からは新しい仕組みを作るには時間も労力も必要であり先進国から資金増が優先であるという意見、草の根NGOからは、新しい資金メカニズムが現場に保全上の問題を引き起こすリスクがあり懸念する声等も上がっていました。

2 資金の流れ

COP16では、先進国から途上国への資金のうち、2国間の支援と多国間の支援それぞれに課題が指摘されました。

2国間いわゆるODAでの支援は、借款の割合が多いことが指摘されています。支援という性質から低利ではあるものの、途上国の借金が増えることになります。

多国間の支援、すなわち、資金を一度一か所に集め分配する仕組みにも課題があることが議論されました。特に多国間資金メカニズムとして、地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)という組織があるのですが、

  • ① 生物多様性条約非加盟国のアメリカに拠点があることから、生物多様性条約の枠とは関係なく設定される米国の規制措置の影響を受けること、
  • ② 生物多様性条約決定に基づいて資金の配分を検討するものの途上国にとって必要な時にすぐに活用しにくい(との途上国の意見)。プロジェクトに対して支払う資金が多く、途上国側でいちいちプロジェクト申請作業などが発生するなどの手間もあります。
  • ③ 生物多様性枠組み基金(GBFF: Global Biodiversity Framework Fund)というCOP15で合意された資金もGEFの中で運用されるので、①②の課題が生まれること。

等、COP16では途上国からGEFへの注文(苦情?)が相次いで指摘されました。

このGEFおよびGBFFといった多国間メカニズムの課題に対して、GEFやGBFFの運用改善で対応できる(先進国)という意見と、生物多様性条約下に新しい資金メカニズムが必要だ(途上国)をいう意見とで大きな立場の隔たりがCOP16では見られました。

この新基金が必要かどうかも、資金の流れの論点の大きな一つとなりました。

2月22日に、COP16議長名(コロンビア環境大臣のムハンマド・スサナ氏)で、この間の非公式意見交換を通じて得られた知見を議長ノート(CBD/COP/16/INF/43/Rev.1)として公開し、具体的な決定案も含め、COP16.2でGBF達成のための資金構成(Financial Architecture)はどうあるべきかという基準(Criteria)で、今後のCOPやその間の検討プロセスを活用して、どう検討されるべきかというロードマップ(road map)に合意してはどうかという提案を発表しています。24日に開催された記者会見では、幅広い意見をまとめているとの評価がされていることが、スサナ議長から説明されました。

COP16から4か月しか経っていませんが、この間、米国ではトランプ大統領が誕生し、環境保全に活用されていた開発援助が停止される等の事態が起きており、欧州でも環境保全政策への反動的な動き、多国間主義への反発が広がっていると言われています。COP16.2は、政治的な景観(political landscape)の変動の中で、多国間主義がどういう答えを出せるのか、生物多様性条約に限らない議論が見られそうです。

国際自然保護連合日本委員会事務局長 道家哲平