生物多様性条約第5回実施に関する作業部会(SBI5)が始まりました。会場は、コロンビアのカリという都市です。10月18日まで3日間、SBI5が開かれます。

会議は、SBI議長による開会宣言後、議長国中国の挨拶に続き、ショーメーカー事務局長の挨拶から始まりました。その後、書記の指名(エジプトのムスタファ)や、議題・進行の承認など順調に進みました。午前と午後3時間のうちの2時間を使って、生物多様性枠組み(Global Biodiversity Framework)に基づいた生物多様性国家戦略(NBSAP:National Biodiversity Strategy and Action Plan)や国家目標(National Target)の設定状況について各国からの発表が行われました。

アストリッド・ショーメーカー事務局長の挨拶

その後、「各国の実施状況に関するフォーラム(Open-ended Forum for Voluntary Country Review)」の試行版が1時間ほど開催されました。このような対話が行われるのは初めてのことで、実は懐疑的な国もいて、二日目の動きも気になります。フォーラムは、

あらゆる社会の参加に関して、国内目標設定について、実施の手段(財政計画や能力開発計画含む)についての3テーマで、パネルディスカッション形式で、進行するようです。

フォーラムのルール。交渉ではなく、聴衆を気にせず話し合うことを強調していました。

議題2 実施の手段含むGBFの実施状況のレビュー

この議題は、COP15決定にある「COP16までに各国で生物多様性国家戦略または国別目標を設定し、報告すること」「その報告を基に更なる行動を検討する」という趣旨の決定を根拠に、現状の分析を行い、必要な行動をまとめて、来週から始まるCOP16の決定案をまとめる役割があります。

議事の冒頭、生物多様性条約事務局からは、オンラインレポーティングツール(https://ort.cbd.int/dashboard)には、92の生物多様性国家戦略あるいは国別目標が登録されていることが報告されました。8月終わりの時点で69、会議資料作成が間に合う10月14日時点で83でしたので大きく加速していることは間違いないですが、196ヶ国注では半分に届かなかったので、引き続き、各国に行動を求める趣旨の説明がありました。

非常に多くの国が、この議題に対して発言をしました。

先進国も途上国も生物多様性国家戦略あるいは国別目標の設定を完了している国はそのアピールを行ったり、出来てない国もいつまでに作業を完了する予定かなどを発表していました。目標の設定だけでなく、その実施の重要性を指摘する国もありました。

目標設定が未完の国は、先進国にも途上国にもあり、各国における行政プロセスにかかる時間などが影響しているようです。世界枠組み(GBF)においてはあらゆる政府の参加、あらゆる社会の参加が推奨されており、そのような多様なプレイヤーが参加するプロセスに時間がかかることを理由に、目標設定に時間がかかっていることを話す国もありました。
また、メキシコなどは、政権交代によって行政プロセスが滞ったことなどが報告され、事情は様々なようです。

アフリカグループは、国別目標やNBSAPの設定において、途上国が直面した課題を、以下のように整理していました。

  • ①指標の設定(指標の定義がまだ曖昧である)
  • ②モニタリング枠組みや体制に関する能力不足
  • ③GBFファンドなどの実施にかかる支援の不足
  • ④実施に関する国内の財政資源も含めた、調整された支援が重要。特に、財務省や金融関係省庁との革新的な調整方法の欠如

これに加えて、エチオピアなどからは他の課題も指摘されています。

  • ⑤普及啓発のためのコミュニケーション
  • ⑥多様な環境条約との連携(ラムサール条約等も「国別行動計画」等の設定を奨励しており、これら自然系条約で設定されているやるべきことと、生物多様性条約の奨励事項とを作業が重複することなく、調整してできる方法が期待されています。途上国では、1~2名の担当官が複数の条約を同時に担当していることもよくあります)

国によっては、全政府参加型(Whole Government Approach)や全社会参加型(Whole Society Approach)のプロセスを活かしたことをアピールする国もありました。地域対話(Regional Dialog。アジアは日本で開催)の有効性を指摘する国も複数ありました。

全体にかかる発言としては下記のような指摘が出ていました。

  • 地球環境ファシリティ―(GEF)が多くの途上国中心に130ヶ国以上の国の国家戦略(または国別目標)の設定を支援しているのに92ヶ国と半分であることをどう考えるか。途上国への資金や能力支援の最適な形を議論することが大事。
  • 途上国を中心に、指標やモニタリング、資源動員の仕組みの構築に課題を表明する中で、どんな支援が必要か。地域ごとに設定された技術支援センターへの期待の声もありました
  • 提出できてない国への締切再設定(COP16までに更新するというのがCOP15で設定された締切で遅れた場合の締切を設定していない状況です)と、それらを活かしたグローバルアナリシス(総合分析)の仕組みの検討。
  • グローバルアナリシスは、「各国のNBSAPや国別目標を足し合わせた分析」であって、NBSAPや国別目標設定の際に直面した課題とその解決策をまとめる事が重要(SBI勧告への反映)
  • 主にオブザーバーからは、先住民地域共同体・ユース・女性等から、意義ある参加や権利ベースアプローチ、ジェンダーレスポンシブアプローチ(*)などの重要性を指摘。国家戦略や目標策定時だけでなく実施における参加の確保を主張。

多くの意見出しの後、議長はこの意見を基に会議用文書(CRP:Conference Room Paper)を作成し、3日目(金曜日)の午前に検討するとまとめられました。

オブザーバーの意見を指示する国の様子

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平