5日間続いたSBSTTAが10月19日午前のセッションで終了しました。最終日に近づくにつれて、交渉が深夜に及ぶなど、いつものSBSTTAという感じでしたし、科学技術的助言というより、プレCOPの様相です。

「サイドイベントもある準備会合」の復活は喜ばしいことで、GBFのロゴの案など現地参加者でしか見られない情報などもあるし、GBFの実施のための具体的な取組みがいくつも報告されて充実していたと思います。参加者も登録ベースでは794名おられたようで、いつものSBSTTAよりも人数が多かったようです。

過去のエクササイズと同様にSBSTTA25の決定を紹介します。下記の内容は、L文書を基に作成しました。科学技術的助言の元に作成された[承認][歓迎][謝意をもって留意]などの細かな表現等は訳し分けていないため、必要に応じて原文に当たってください。

議題3-a 指標

GBF達成を測るためのヘッドライン指標の改良に関する議題でした。特に今回は、YES/NOなどで答えられるアンケートを締約国に実施し、その集約を基に実施状況を把握する、バイナリー(二進法が原義)指標に関する検討でした。

SBSTTAは、COP15決定に基づいて指標のシステムの完成をCOP16までに行うよう要請されており、指標専門家グループと共に作業を継続していきます。

バイナリー質問案をまとめるとに、専門家グループには、作業の継続を求め、特に、手法が存在しないヘッドライン指標の改善、バイナリー質問や解説への改善コメント、セクションC(原則)の検討、来月の8(J)会合の成果の検討などを求めました。

事務局に対しては、指標を第7次国別報告書のための報告フォーマットへの適切な反映、バイナリー質問項目へのコメントの実施と集約、次回SBSTTA議題への反映などを求めました。

SBSTTA本会議が始まる前に、先住民地域共同体やユース・女性の参画などの取組みが反映されていない、国のYES/NOの回答だけで、性急な成果を測るべきではないという、NGOのキャンペーンなども行われました。

議題3-B グローバル中間レビュー

GBFの達成状況の中間評価のための仕組みを検討する議題で、主に、グローバルレポートとそれに基づくレビューのあり方を検討しました。国別報告書やそれ基づいて作ってきたGBOとの関係で言えば、SBSTTAよりは、条約の実施に関する補助機関会合の議題でもあるため、今回の検討状況を踏まえた、SBI(次回は、2024年5月にナイロビで開催予定)の議題検討を求めました。

グローバルレポートで整理するべき情報等を整理しましたが、他の多国間協定やSDGs関連の実施成果や、実施に関する課題や政策オプションまで記述するかどうか、途上国等の課題を明記するかなどは、COP16で解決する事になっています。

グローバルレポートで”考慮するべき情報(source fo Information)”も議論の焦点となりました。第7次国別報告書、各国のNBSAPの実施状況、過去のGBO等の文書、実施手段に関する報告、非国家主体による自発的貢献(Non State Actor Contribution)などが上げられましたが、IPBESのレポートや他の環境条約の実施状況などは適切な表現がまとまってない状況です。

COP16決定案の一つとして、グローバルレポートのための科学技術グループを立ちあげることを提案し、その作業領域(TOR)案もまとめています

議題3-c アプローチ

*下記の内容は、L文書5を基に作成しました。

GBFを受けて、過去作った作業プログラムをどうするかについて、COP16の議題にするには課題等が明確でないが、引き続き、検討することが必要との意見となりました。

そこで、事務局に対して、包括的なレビュー、締約国への意見聴衆と集約、GBFの達成のために必要なギャップ(大きなギャップも含めて)を特定することをSBSTTA26に向けて、多年度作業計画や予算への影響をSBI4で検討するために行うことを求めました。

多国間環境協定や機関、他の団体等に関して、上記の活動に貢献することを奨励しました。

議題3-ⅾ 植物保全戦略

GBFの採択に伴い、植物保全戦略の「補完的な行動」を検討する議題でした。

COP16勧告案

付属書にある植物保全戦略の補完的な行動を採択し、締約国に対して、植物保全に関する生物多様性国家戦略や行動計画等を立てる時に植物保全戦略を考慮すること、国別報告書に実施状況を組み込むこと、植物保全戦略の国内担当(National Focal point)を指名すること等を求めました。

また、関係する国際・国内機関等に実施の支援を行うこと、植物保全世界パートナーシップ(Global Partnership for Plant Conservation)に対して、モニタリング枠組みでの活用方法、補完的な行動への指標を特定または開発すること、報告時のテンプレートの作成を奨励しました。

植物保全戦略補完行動リスト(付属書)は、締約国から複数の提案が入り込んだ文章になっています

議題4 IPBES多様な価値に関する評価書

2022年に発表されたIPBESの評価報告書を受け、今後の行動をまとめる議論となりました。

COP16勧告案

多様な価値に関する報告書(Methodological Assessment Report on the Diverse Values and Valuation of Nature of IPBES)及びその政策決定者向けメッセージを歓迎し、締約国に対して

  • 多様な価値に関する評価方法に対処すること
  • 政策決定において、自然の多様な本質的価値、関係的価値、手段的価値を含めること
  • 持続可能性と環境正義のグローバルな目標に合致させるために、政策や制度、そしてその根底にある規範や社会的目標を改革すること
  • 様々な持続可能性の道筋を促進するための参加型プロセスを支援すること
  • 多様な価値感を組み込む際に、先住民地域共同体や女性やユースの参加を奨励すること

などの文案をまとめました

議題4と5 IPBES外来種評価書と外来種の決定内容

COP16に対して、以下のような決定を行うよう提案(Recomendation)しました。

IPBES外来種アセスメント・政策決定者向けサマリー(Key Message含め)を歓迎し、その中身の活用を、国家戦略の改定や実施、第7次国別報告書の作成の機会も含めて、締約国や関連組織、IPLCや利害関係者に奨励しました。(パラ4チェック)

IASに関する知識や実施手段、知識ギャップへの対策、適切で持続的な資金や資源の重要性を協調しました。

IAS専門家グループがまとめた付属書の”要素”を承認するとともに、NBSAPの改定や実施、国や地方自治体の活動に情報提供することを求めました。

締約国に呼びかける事項(案)

  • (a) 侵略的外来種の現状と傾向、導入と定着要因の情報提供や、効果的な管理オプションなどの情報を活用すること;
  • (b) 侵略的外来種を管理するために、相乗効果を求める政策手段を検討すること;
  • (c)オンライン取引や既存の基準でまだカバーされていない分野の規制を含め、IASの輸送や持ち込みを減らすため規制手段を開発または強化すること
  • (d)早期発見の措置・体制を整備すること
  • (e)さらなる研究を促進し、能力開発、技術移転、技術・科学協力を支援することなど、知識やデータのギャップに対策すること
  • (F)外来種管理のための情報プラットフォームやインフラ、データ共有等の開発と長期的な運営を支援すること
  • (g))女性、若者、先住民、地域社会を含む幅広い利害関係者を関与させること、
  • (h)普及啓発をすすめること
  • (i)[「ワンヘルス・アプローチ」を支援し]、国、国際的・地域間やセクター間の調整と協力を強化する機会を模索すること
  • (j)知識共有や能力養成を実施すること

などを求めました。

事務局に対しての要請事項(案)

侵略的外来種に関する連絡グループの連携強化、ターゲット6のために加盟国が求める措置等をまとめること、経験や教訓の共有、能力養成のための手法の開発、国際協力の促進、環境や貿易関連セクターやGBIFタスクフォースとの連携強化を要請しました。

また、締約国の経験、ワンヘルスアプローチの統合についての情報や経験交流のためのオンラインフォーラムの実施すること、知識共有や能力養成活動を行うこと、SBSTTAに前述の活動の進捗報告を行うことを要請しました。

付属書のタイトル一覧(再掲)

  • 付属書 I 侵略的外来種の管理に最適な費用便益、費用対効果、多基準分析手法
  • 付属書 II 生きた生物の国境を越えた電子商取引に関連する追加リスクとその影響の特定と最小化
  • 付属書III 気候変動やその他の地球規模の変化から生じる潜在的リスクの防止に関連する侵略的外来種の管理
  • 付属書IV 侵略的外来種の導入が社会経済的・文化的価値に及ぼす潜在的影響のリスク分析
  • 付属書V 侵略的外来種の管理を支援するデータベースの妥当性
  • 付属書 VI 侵略的外来種管理に関する追加アドバイスと技術ガイダンス

議題4と6 IPBES持続可能な利用評価書と野生動物管理

通常、陸生の野生動物を想定としてガイドラインが作成されてきたこの議題ですが、持続可能な利用に関するIPBES評価書の成果も受けて、様々な、利用を考える必要出てきました。

そこで、SBSTTAとして、CBD事務局長やCollaborative Partnership on Sustainable Wildlife Managementに対して、これまでの事業と、IPBES評価書が掲げた持続可能な利用推進に必要な原則とのギャップを精査すること(パブコメの実施と結果のCOP16へのフィードバック)を要請しました。

  • 包摂・参加型の意思決定
  • 多様な知識の組み込みや、権利への認識
  • コストと利益の公正な配分
  • 地域や社会生態学的文脈に合わせた政策
  • 社会生態学的条件のモニタリング
  • 政策調整
  • 慣習から成文法までの仕組み

COP16決定案

IPBES持続可能な利用に関する評価報告書を歓迎し、評価書にある通り、先住民地域共同体の参画の重要性を指摘するとともに、締約国に対して、IPBES評価報告書の情報の活用、原則の国内政策での検討、包摂的で参加型の仕組みの導入、貧困や不公正、食料の不安定さの水準などと野生動物の持続可能な利用への依存を考慮した支援政策、教育や普及啓発、CPSWMとの連携、政策課題への対策、違法捕獲や違法貿易への対策との調整、野生動物利用と人畜共通感染症との関係の更なる調査、先住民地域共同体地の共作による更なる研究の推進などを呼び掛ける案をまとめました。

この作業推進のための、関係機関との協働、情報共有の推進、インセンティブの推進等の施策を国や事務局に求める案もまとめています(なお、複数[ ]という合意されてない状況を示す印が付いています)

議題4と7 気候変動

この議題は多くの議論をもうけましたが、COP16決定案はマルっと[ ](bracketとよばれる非合意事項)にして、SBSTTAとして直ぐに取り組むべき事項をまとめるにとどまりました。

IPCC第6次報告書を歓迎し、IPBESが第2次グローバルアセスメントの作業を開始したことをIPCCやUNFCCCと共有し、IPBESとIPCCとの更なる連携を奨励しました。

また、CBDフォーカルポイントとUNFCCC担当者との協働による生物多様性と気候変動の理解の向上の重要性を強調するとか、事務局に対しての要請も、ターゲット8と10に関係する既存ツールの評価をする場合は、NbSに関する決定にも留意し、IPBESとIPCCレポート考慮することなど、非常にあいまいな決定に留まりました。

気候変動と生物多様性は、SBSTTA交渉官の中では、まだまだ距離がある議題のように思います。

国際自然保護連合日本委員会

事務局長 道家哲平