5月17日、SBSTTA5日目、SBSTTA26日も残り二日というところとなりました。昨日までは、SBSTTAの役割であるCOP16への提言作成は、いつものように(?)、技術的というよりは政治的な立場の違いで、些事のように思うところでも対立して、ゆっくり進んできました。一方、文章はまとめないといけないので合意できてないというサインであるbracket([ ]四角のカギカッコ)を付けながらも、文書作成の速度を若干上げました。

午前には、健康と生物多様性のテーマと海洋沿岸のコンタクトグループを開催し、午後と夜(20時から22時)には、プレナリーを実施して、CRP文書を協議しました。

国際会議に参加する意味

国際会議に参加する意味は、IUCN-Jウェブサイトでも紹介していますが、将来世代や実際会議参加を目指す方向けの事前勉強会では、個々人の視野に寄せて、下記のように紹介しています。

  1. 世界を見る
  2. 見たものを発信する
  3. これから地球で生きるものとして、声を上げる
  4. 成長し、将来、行動できる人になる
  5. 日本から、課題・解決策を提案する
  6. 課題解決のビジネス・プロジェクトの創業者になる

ある程度経験を積んだ私自身も、この視点を常に思い出して取り組んでいます。他の国際会議に参加するNGOと比較しても、報告等を丁寧に、また、数多く行えているのではないかと思います。

毎朝、IUCN代表団の会合に加わり、意見を述べあったりすることで、顔見知りを作り、いざ世界の方と連携したいという時にスムーズな連携ができるような条件整備もしています。

国際ガイダンスの使い方

「SBSTTA4日目 サイドイベントの成果」で紹介したような、生物多様性条約や、IUCNその他国際機関で作られるガイダンスを紹介されたとしても、どう使うかというのは悩ましいところです。下記はあくまで私見ですが、私の使い方を紹介します。

1.機械翻訳でもかまわないの翻訳する。

DEEPLなど最近の機会翻訳の質はかなり上がっています。専門用語などは若干訳がおかしくなりますが、正確さより、文章の主題は何かをつかむことが大事です。

2.自分たちの文脈・名称に機械的に置き換える。

例えば、IUCNユース戦略に対して、まずは、それを自分たちのガイドラインと思って、IUCN-Jユース戦略と置き換えます。日本人は緻密な方が多く、作業途中で意味が通らないとか、具体的に詰めて想像すると言わんとしていることがよくわからないといった足踏みしたくなる箇所も出てきますが、作業を止めず、機械的に、置き換えるのがポイントです。内容が大きくそぐわないと思う時でも、目次立てだけでもコピーするという価値はあります(ゼロから書くよりは、ずっと早い速度で仕事が進みます)

3.じっくり理解する。

まず、国際社会で作られるガイダンスは、世界各地の声を集めた制作物です。日本の文脈でそぐわない、想像がつかないといった記述があっても、その記述が重要な意味を持つ国が世界にはあるという想像力を働かせることは大事なことです。CBDで、「先住民地域共同体への配慮や敬意を表する」ことを様々な決定文案の中で言及するのは、世界各地で、配慮しないあるいは無視する社会制度があった(あるいは今なお存在する)からです。もちろん、このテーマは日本でもありましたし、今なお、形を変えて存在していて、ただ自分の目の届く範囲にないだけかもしれません。多様な社会背景のなかで書かれた重要なことは、その理由に思いを馳せながら、理解することが大事です。

じっくり理解のコツとして、私だけかもしれませんが、よく使う方法は、2つあります

1つは、日本語に訳しにくい英単語の語源を調べる方法です。例えば、Resillienceは、強靭とも訳される言葉で、自然を生かした防災減災などの文脈で良く出てきますが。「re(後ろに)」「salire(跳ねる)」という意味があるようです。津波等でダメージを受けても、速やかに問題ない状況に戻ることが出来る(以前と同じ姿でないこともあるが)といったイメージです。こう捉えると、強度と靭性を兼ね備える強靭とは若干意味に齟齬があることが分かります

2つ目の手法は「逆を考える」という方法です。国際社会で大事・目標を作ると言うからには、今は、その逆の状態だと理解して、逆の状態から、元の言葉の意味をつかむ方法です。生物多様性の逆は、人工物画一性というイメージですし、「持続可能な開発目標(SDGs)」の逆は、「非持続可能で、人々の可能性が閉ざされた(Developの対義語に、Envelope(封をする)があります)現在」、というイメージです。

4.アレンジする。

一定の理解を得たのち、日本の文脈で優先度をつける、省略する、改変するということを始めます。私の経験上、まとめる際の分量もあると思いますが、極力省略は避け、言葉としては残す方が良いと思います。今必要性を感じなくとも、世界中の人が必要といったものはいつかどこかで価値ある指摘だったと気づくことも多々あります。ガイド(Guide)の語源は、「導く」「道を示す」という意味で、結局歩くのは自分です。自分達やあるいは関係者が共有しやすいものを作ることが大事です。「ネイチャーポジティブを実現する道筋を歩めるかどうか」という基本を常に振り返りながら、世界の知恵を借りていく、ということを大事にしたいと思います。

そして、余力をぜひ作り、自分がうまくいったという思うところ(あるいは、失敗したと思うところ)を世界にフィードバックすることも頑張りましょう。

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平

*今回の国際情報収集・発信業務は、経団連自然保護基金、地球環境基金の助成、ならびに、IUCN-Jへのご寄付を基に実施しています。このような情報発信を継続するためにも、IUCN-Jの活動へのご寄付をお願いします